第10話:二人の王女と剣戟と憧れ

「ルナー、次の時間は外に行くよー。」


 先ほどの魔法学理論の講義後、フレアにそう言われました。


「ええと、次の時間は確か剣術の講義でしたっけ?」

「そうだねー。うちの国では学院の存在理由に魔物の対策というのがあるからねー。で、魔物を倒すときには魔法だけじゃなくて剣も普通に使うからねー。ルナって剣とかって使ったことあるの?」

「儀礼、というか演舞で行うためのレイピアを少しくらいですね。私の国ではもう戦いで剣は使わないので。」

「剣を使わない…?魔法も使えないんだよね?じゃあ何を使うの?」

「銃、というものです。仕組みは火薬を燃やして発生した圧力を利用して、金属の塊をかなりの速度で打ち出す、という感じですね。」

「かやく…?ええと、とりあえず鉄の塊を対象にぶつけるって感じ、なのかな?」

「まあ、そんな感じの扱いでいいですね。」

「それで何を倒すの?」

「…人間です、人間。一応害獣駆除に使うこともありますけど。」


 その言葉はフレアの表情をなんとも言えないようなものに変えた。聞かない方がよかったみたいな。


「気にしなくて大丈夫ですよ。私は銃で人を撃ったことはありません。」

「そうなのか、なんか、ごめん。」

「だから、大丈夫ですって。前にこれが大規模に使われたのは二十三年前ですし。私は生まれていません。とはいえ、思うところはありますね、どうしても。」


 フレアはそっかー、と少し誤魔化したような感じを出して、少し顔を伏せた。そして、すぐに取り繕うように顔を上げた。


「あ、もうそろそろ着くよー。」


 どうやら次の講義の場所に着いたみたいです。そこには人の形に寄せたような形の的みたいなものがありました。実際に剣を使うのは魔物なのではなかったのですか…?そんなことを考えていると講義が始まったようです。


「フレア王女殿下、少しお手本をお願いできますか?」

「わかりました、やってみますね。」


 どうやら、フレアが剣術のお手本をしてみるようです。フレアは両刃付きの木剣を二本手に取ると、的に対して、剣戟を振るい始めました。一撃、二撃、それで終わらず、続けて三撃目、四撃目。その剣技はとても美しく見えました。見惚れてしまいそうなレベルです。


「これくらいでいいですか?」

「はい、大丈夫です。やはり、素晴らしい腕前ですね。」


 そう講師の方が言うと、自然に拍手が起きました。どうやら、私の抱いた感情はみな抱いていたみたいです。すると、今度は私の方に話が振られました。


「ルナ王女殿下、剣術の修練をしたことなどはありませんか?」

「レイピアで演舞なら少しできますけど。」

「では、少し演舞を披露できませんか?」

「今からですか?」

「できるならで大丈夫ですよ。」

「…フレアほどのレベルではないと思いますけどやってみますね。」


 私はフレアの振っていたのと同じタイプの剣を一本取って的の前に立ちました。一応週に最低一回は振ってはいましたが。気持ちを整えて一息入れて剣を振るいます。一突き、二突き、三突き、いつもしている動きをなぞるだけです。一通り演舞を終わらせて動きを止めました。その瞬間、一瞬その場が静まり返りました。フレアのと比較されてるんですかね…?そんなことを考えましたが、その心配はすぐに消し飛ぶことになりました。


「ルナー!すごい、すごいよ!」


 不意に、視界の端から何か飛んできたと思ったら、フレアがそう言いながら抱きついてきました。それとともに、拍手が鳴り響きました。フレア王女殿下に引けを取らないレベルですよ!そんな声が聞こえる。


「ほんとにルナってすごいのね!これが天才ってやつ!?」


 そう言いながらフレアはさらに腕に力を入れてきます。このままでいいかもですね、とか思いかけましたが、今は講義中ですね、一回引きはがさないと…。


「フレア、ちょっと、今人前!」

「気にしないのー。」

「そこ二人、今は講義中ですよ。」

「はーい、先生、すみませーん。」


 そう言ってフレアは私と話して少し距離を取った。離れた後は落ち着いたけれど抱き着かれてるときは少し顔に熱を感じたような気がします。普通に恥ずかしかっただけだと思いますけど…。


 そのあとは、各自打ち込みの時間になりました。私も皆と同じように剣を振るいます。やはり、何か物事に集中することは素晴らしいです。自分の世界に入れるというか、なんというか。そして、ふと、戻ってきたときにフレアの方を見てみます。フレアはとても楽しそうに二本の剣を持って踊っている。やはり、とても美しく見えますね。


 そして、そんな感じで何回か打ち込んだあたりでこの講義は終わりとなった。


「ルナ、次の講義までは時間があるから昼食行こっか。」


 そう言うフレアに連れられて食堂に向かうと、フレアがあれやこれやと昼食を頼んでいきます。


「あ、ルナは何か食べれないものとかある?」

「いいえ、特にはないですね。」

「なら、私と同じのでいい?」

「え、あ、はい、大丈夫ですけど。」


 そう言ったフレアは私の分も頼んでいきます。そして、二人分の食事を受け取ると、空いている席に着きました。


「しっかし、演舞、という割には妙に上手だったじゃん。」

「演舞なんで実戦向きではないですよ…?」

「んー、そうかな?多分実戦でも通じる剣技だったと思うんだけどなー。」


 食べながらさっきの講義の話をしています。すると、先ほどの講義で見かけた人達が私たちに話しかけてきます。私は正直人に話しかけられるのはあまり得意ではないのであたふたしてしまいました。フレアはそんな私を横目にそれをすべて捌ききっていました。私には真似できないです…。

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