第9話:ルナ王女と初めての学院

 フレアのお父様、この国の国王陛下との顔合わせのあと、そのまま一緒に食事を、という流れになり、夕食を頂きました。私の国のものとはかなり料理が違いましたが、さすがといったところでしょうか、とてもおいしいものでした。そして、夕食が終わり、部屋に戻って少しした後、私は再び、フレアの部屋に向かい、扉を叩きました。


「夜分遅くに失礼します。」


 私の声が聞こえたのか、中から入ってー、と言うフレアの声が聞こえました。部屋に入ると、フレアが空いている椅子に座るように促したので、その席に座ります。


「すみません、パーティに呼び出される前に言いかけていたことなんですけど、いいですか?」

「あー、何か言いかけてたね。」

「はい、そのことなんですけど、魔石で魔力が回復するんですよね?」

「うん、それがどうしたの?」

「その魔力って直接利用したりはできないんですか?」

「と、言うと?」

「私たちの国には電池、というエネルギーを電気という状態で貯めることが出来るものがあります。そして、その貯めておいたエネルギーを別の場所で利用できます。」

「つまり、魔石をその、電池?と同じように使えないか?ってこと?」

「そうですね。うまく魔石から魔力を抽出出来れば同じ使い方ができるかな、と思いついた次第でして。」

「なるほど。問題があるとしたら取り出したとして、それをどうやって使うのかが課題かな。試してみる価値はあるかも。」


 フレアは私の提案について割と真剣に考察してくれています。私の提案にあっさりと乗ってくれた人は今まであまりいませんでした。あまりにも突拍子のないことだと一蹴されてしまって。でも、フレアはそうせずに、できるかどうかについてから考えてくれています。そんなフレアの姿を見ていると、今までにないような感情を抱いてしまいます。この人と研究等をしたらきっと楽しいでしょうね。


「姫様、ルナ王女殿下、朝でございます。」


 どうやら、私は昨夜、結局話し込んだままフレアの机で一緒に寝落ちしてしまっていたみたいです。髪などを整えずに寝てしまったのでちょっと状態が心配です。


「んー、ありがとう。」


 私の隣で目を擦りながらフレアがそう返していました。フレアの部屋に置いてあった鏡で二人揃って身だしなみを最低限整えた後、そのまま朝食のために部屋を出ました。朝食はワンプレートのものでしたが、こちらも夕食同様、かなりおいしいものでした。朝食後、自分の部屋に戻って、自分の考えをまとめていると、フレアがやってきました。フレアは昨日会ったときの服の色違いのものの上に黒を基調としたローブを羽織っています。そして、手にはそれと同じローブを持っています。


「はい、ルナ、これがうちの学院の制服だよ。と言っても、普段着の上に羽織るだけだけどね。」


 どうやらフレアの持ってきたものはこの国の学院の制服みたいです。


「これねー、一応魔法使うときにそれをある程度補助してくれるんだよねー。」


 私はフレアが差し出してきたローブを羽織ってみました。


「うん、似合ってると思うよ、さ、行こっか。」


 フレアはそう言った後、私の手を握って引っ張っていきました。その行く先はきっと学院なのでしょう。王城を出て、城下町に出たくらいの位置でとあることを聞いてみました。


「あの、このローブの機能ってどうなっているんですか?」 

「機能?あー、魔法の補助のやつか。簡単に言うと、生地を作るときの糸に魔石を使って魔力を通してるんだったかな。そうすると、魔力の伝導効率が上がるみたい。」

「そうなんですか、イマイチよくわかりません。」

「あー、そっか。ルナは魔法使えないもんね。感覚として私はわかるんだけどねえ。まあ、気にしないで。」

「…そうですね。」


 魔法を使えないとわからない感覚ですか。私もその感覚を知りたいですね。無理なのはわかっていますが…。そのあと、話がうまくつながらず、歩き続けていると、どうやら学院に着いたみたいです。 


 学院に着いたやいなや、私たちは講義に参加する前に学院の学院長に挨拶をしに向かっています。隣から学院長、苦手なんだよなあ、という呟きが聞こえてきます。


「理事長、フレアニア・フィア・ヘカテリアです。」

「フレア王女殿下、入って大丈夫ですよ。」


 学院長室の前で扉越しにそのようなやりとりをした後、私たちは学院長室に入りました。すると、中には黒髪黒眼で目つきがかなり鋭い女性がいた。


「フレア王女殿下、その方がかの姫君かしら?」

「はい、この方がエクスマキナ王国第一王女で交換留学をこの学院で行うことになったルナモニカ・フォン・エクスマキナです。」

「フレア王女からご紹介頂きました。私がルナモニカ・フォン・エクスマキナです。」

「私はこの国立魔法学院の理事長であるフォルド・フォーレットよ。三か月の間だけどよろしく頼むわ。」

「はい、私もこの学院で過ごせる日々を楽しみにしておりました。」


 どうやらこの女性の方が学院長みたいです。と、まあそんな感じに顔合わせを済ませたのですが、


「フレア王女殿下、いつも見てるからね。」


 帰り際にそんなことを言っていました。フレアは何かビクッとしていましたが、一体どういう意味なんでしょうか?文字通りの意味だとしたら、なんとなく苦手意識を持つのもわかるような気がします。

 

「さて、ルナ。ここからは講義に参加するよ。悪いけど、私と同じ講義を一緒に受けてもらう形になるかな。」

「はい、大丈夫です。新しいことを知りたいですから。」


 どうやら、ついに講義に参加できるみたいです。最初の授業は魔法学理論の講義でした。内容としては、完全に新しい知識でした。見たこともない、聞いたこともない、そんな話です。メモを取りつつ聞いていましたが、久しぶりにとてもわくわくするものでした。

 講義終了後、私は真っ先に、魔法学理論の教授に質問をしに行きました。教授はすごく嬉しそうな感じを隠しもしていない感じでした。


「魔法の原理として、魔力と魔素の両方を使うとありましたが、その利用割合によって何か違いはあるのですか?」

「そうですね現状、魔法の発動について、基本的に魔法と魔素は同量消費されるとされています。そのため、そのようなアプローチを試そうとした例は少ないですね。しようとした例はありますが、利用割合の変更はできなかったと見た記憶があります。」

「つまり、そもそも利用割合を変えることはできなかったということですか?」

「私の知っている範囲ではそうですね。しかし、過去の論文を確認したらもしかしたら変えることのできた例が存在するかもしれません。少し確認してみますね。」

「はい、わかりました。楽しみにしてますね。」


 質問にひとしきりキリがついたところでいつの間にか近くに来ていたフレアに気が付きました。


「どう?面白かった?」


 フレアのその問いについての答えは決まっていました。


「はい、素晴らしいものでした。」

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