第14話:フレア王女と協力者

 フレアと魔石から魔力を抽出する方法について議論してから数日が経ちました。その間も学院での講義は普通にありました。内容としては実際に魔物と戦うことを想定している講義や野外での行動に必要な知識、他には、魔法関連の座学など、まあ、全体的に実践的なものが多かったです。今は、学院から帰っている道中です。今日は、どうやらフレアが寄りたい場所がある、とのことなのでその場所に向かっています。


「今向かっている場所はどのような場所なのですか?」

「んー、私が実験とかで使う道具を作るのを頼んでる工房。魔女帚とかもそこでお願いしたんだー。」

「何故今からそのようなところに?」

「なんとね!実験用の道具が完成したみたいなんだよね!ほら、この前考えてたやつ。」


 どうやらこの前に考えた道具が完成したようです。そんなことを話していると、フレアがある建物の扉の前で足を止めました。どうやら、目的地に着いたようです。


「オストー、コレイー、例の物できたー?」


 フレアがそう言いながら扉を叩くと、フレア様か、出来ているから取りに来たんなら入ってこい、と声が聞こえました。その声に導かれて中に入ると、黒髪の男女がいました。


「ルナ、紹介するね。こちらが私が懇意にしている鍛冶師のオストさんと、その妻のコレイさん!」

「ルナ王女殿下、とお呼びすればいいのか?俺はフレア様の紹介通り、オスト、オスト・アーキッドっていうもんだ。普段から彼女の考えた魔道具の制作をしている。」

「はーい、私はオストの妻のコレイ・アーキッドよ。よろしくね、お姫様!」


 二人はどうやら、夫婦で鍛冶屋を営んでいるようです。なんか、奥さんの方のテンションが高くて接し方に困るのですが。


「ちょっと、コレイさん!ルナが反応に困っちゃってるじゃん。」

「あら、ごめんなさい。可愛らしい子だったからつい。」


 フレアがコレイさんを窘めてくれたおかげでどうにかなりました。


「まあ、顔合わせは済んだ、ということで。じゃあ早速例の物を。」


 フレアがそう言うと、オストさんが後ろから金属でできた杖のようなものを持ってきました。


「ほい、フレア様。頼まれてたもんだ。」

「うんうん、今確認するね。どれどれ、しっかり要求水準を満たしてる!バッチリだよ!ありがとね。」

「いつものことだ、いいってもんよ。料金の要求はいつも通り王城に送ればいいのか?」

「うん、そうだねー。兄上に回しといてー。」


 と、そんな感じのやり取りをしています。なんでフレアのお兄様に領収書を回しているのでしょうか。すると、コレイさんが改めて私に声をかけてきます。


「ねえねえ、貴方って新たな隣国のエクスマキナ王国の王女様なのよね?どんな国なの?」

「ええと、魔法が存在しなくて、代わりに科学と呼ばれる技術体系が発展した国ですね。」

「へえ、そうなんだ。科学ってどんな感じのもの?」

「そうですね、ある事象がなんで起こるのかを解析したり、とある事象をどうしたら起こせるのかを証明する感じ、ですかね。」


 どうやら、コレイさんは私の国について知りたかったようです。ある程度答えられる範囲で答えていると、どうやら、フレアとオストさんのやり取りが終わったようです。


「ルナ、それじゃあ王城に戻るよー。」

「はい、わかりました。」

「それじゃあ、私たちは戻るね。いつもありがと。」

「おう、こちらこそだ、フレア様。」


 そんなやり取りの後、私はフレアに手を引っ張られるようにお店を後にしました。


「ルナ、明日は休みの日だけどちょっと、これ関係で付き合ってもらうからね!」


 改めて、王城への帰り道でフレアにそう言われました。


「はあ、実際にそれを使ってみるんですか?」

「そうだね、私が見ているから何かあっても大丈夫だと思うけど。」

「その言い方、私が使う前提なんですね。」

「うん、そのつもり。前にも言ったと思うけど私が試すと私の魔力を使ったのか、それとも魔石から得た魔力を使ったのかがわかりにくくなっちゃうからね。」

「そういえば、そのようなことを言っていましたね。わかりました。」


 日が変わり、休みの日となりました。前日にフレアには用意ができたら呼びに行くから部屋で待っててねー、と言われています。そのため、フレアが来るまでの間はいつも通り、理論構築をしています。しかし、その内容はいつもとは少し異なるものです。間違いなく自分だけでは実現不可能なもの。と、その理論について検討していると、扉が叩かれる音がしました。


「ルナー、用意出来たよー。一緒に行こ?」

「はい、フレア。少しだけ時間をください。」


 そう言って、机の上に広げていた紙をまとめた後、壁に掛けてあるコートを羽織り、昨日のうちにまとめておいた荷物を持って扉を開けます。


「お待たせしました、フレア。」

「大丈夫だよー、じゃあ、行こうか。」

「はい。」


 フレアと一緒に王都から少し離れた平原へとやってきました。


「まあ、ここらへんなら大丈夫かな。じゃあ、ルナ、これ握って、あ、こちら側を前に向けて。」


 フレアに言われるままに私は杖を持たされます。私が言われたように持ったのを確認すると、フレアは持ってきた荷物の中から魔石を一つ取り出しました。


「じゃあ、ここに魔石を入れてっと。」


 そう言って、杖の凹んでいる部分にそれを入れました。すると、杖の表面に刻み込んである術式が淡く光りました。


「んー、とりあえず術式自体は動いてはいるかな。ルナ、そこのずらせる部分を移動させてみて。そうしたら術式がつながって仕込んだ風の魔法が発動するはず。」

「はい、やってみますね。」


 杖の持ってる部分を少し確認すると、たしかにずらせるパーツがあります。


「あの、これどこに撃てばいいんですかね…?」

「あー、森の方向とかでどうかな?一応風系統だから発動したら木の揺れですぐにわかるよ。」


 そう言われたので、私は杖の先を森の方向へと向けて、パーツをずらしました。すると、切れていた術式がつながり、そして、杖の先から風の弾丸が発射されました。それは森へと飛んでいき、その後には突風が吹いていきました。


「ええと、これは…、成功したんですか?」


 フレアは私と杖と魔法の飛んでいった先を順々に見た後に、感極まったような顔をしました。


「やったよ!やった!成功だよ!」

「本当ですか…!」

「これもルナの発想がなかったらできてないよ!ほんとにありがと!」


 そう言ってフレアは私に抱きついてきます。とても嬉しそうなフレアをつい私は受け入れました。だって、嬉しいのは私も同じですから。

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