第5話:再会する二人の王女

「というわけで、二日後、ルナを私の名代とした使節団が出発することが決まった。」


 それをお父様から聞いたのが二日前、つまり今日が使節団の出発の日です。私は使節団にお父様の名代として参加しなければいけないみたいです。それで、今はその準備をしています。具体的には着付けですが…。ヘカテリア王国の王都の位置が不明であること、ヘカテリア王国側も同じ思惑で使節団を出しており、遭遇する可能性があることなどから一度東側の国境付近の砦に寄ってから未確定のヘカテリア王国領内に入っていく、ということになっています。そのため、今着付けをしてもらっているのは、社交界で使うような肩が凝るようなドレスではなく、軍服を元にした簡易礼服です。馬車での長い時間の移動が想定されているためです。


「着付けはこれで終わりですよ、姫様。」


 どうやら着付けが終わったみたいです。ドレスほどではないとはいえかなり動きづらいです。持っていく荷物は昨日のうちに整理してあるためすぐにでも出ることができます。まだ少し時間があるようなので理論構築でもしましょうか。


「ルナモニカ、出発の時間だ。」


 思索に耽っているとお父様が直接呼びに来ました。恐らく、そうでもしないと実験もしくは思索を続けてしまうと思ったのでしょう。はい、お父様、と返事をして、荷物を持って部屋を出て、使節団の出発の場へと向かいます。


 目的地へと着くと、すでに出発の準備は整いきっているようでした。


「姫様、出発の準備はお整いですか?」

「はい、今すぐにでも出発できます。」

「では、こちらの馬車へ。」


 同行するバロールレ参謀本部長に連れられて、私は馬車に乗り込みました。その後、合図となる空砲の音が聞こえ、馬車は動き始めました。


 そして、王都から出たあたりで周りには一緒に馬車に乗り込んだ専属のメイド以外に誰もいないことを確認したところで荷物の中から考え中であったレポートを引っ張り出していつも通り思索を始めました。どうせやることもないですしね。ため息が聞こえますが気にしたら負けなのでしょう。そういえば出ていく前に離宮の扉のところにしばらく外出する旨を書いた手紙か張り紙でも置いておくべきでしたでしょうか、フレアのためにも。


 そうして考え込んだりしているうちに、数日が経ち、目標としていた東の砦につきました。ここからは私はこの砦で待機となり、同行している軍の者が斥候を行い、情報収集などを行うことになっています。


 さて、砦に着いて三日くらいが経った頃でしょうか、どうやらこちらに向かってくる一団を発見したという報告が入りました。斥候が接触したところ、どうやら相手に敵対の意志はなく、また、ヘカテリア王国の使節である、と答えたようです。そして、私が今いる砦で使節同士の会合、つまり、ヘカテリア王国との初めての外交が行われることが決まりました。間違いなく責任重大です。


 私は砦でバロールレ参謀本部長が使節を案内してくれるのを待つことになっています。


「姫様、使節の方をお連れしました。」

「ありがとうございます、バロールレ参謀本部長。使節の方を通してあげてください。」


 そう言うと、部屋の扉が開き、バロールレ参謀本部長とヘカテリア王国の使節の方が入ってきました。使節の方は女性でドレスにしては簡易的で昔の騎士団のような服を着ており、金髪碧眼で髪はショートになっています。

「遠いところ、御足労ありがとうございます。私はエクスマキナ王国国王ジョイア・エラ・エクスマキナの名代でエクスマキナ王国第一王女のルナモニカ・フォン・エクスマキナです。」

「こちらこそ、このような場を設けていただいたことに感謝申し上げます。私はヘカテリア王国国王フェナンタ・レラ・ヘカテリアの名代でヘカテリア王国第一王女のフレアニア・フィア・ヘカテリアです。」


 彼女はフレアニア、確かにそう名乗りました。


***

 

 ルナモニカ、そう言ったよね?この子。いや、二日前くらいに使節団の一員、しかも父上の名代として出発したんだよね。そしたらエクスマキナ王国の軍の兵士と名乗る見たことのない恰好をした人に出会ったから代表者に会いたい旨を伝えたら砦でエクスマキナ王国国王の名代の方と会談できることになったんだよね。そして、いざあちら側の使節に会ってみればびっくり、まさかルナなんて!!ルナはぱっと見の表情は変化してないけど目を見ると驚いている感じを隠し切れてない感じがする。私も驚いてるんだけどね!まさかルナも王女なんて!


 まさかの再会となって呆気にとられているとルナは表情を引き締めて口を開いた。


「使節とのことですが、我がエクスマキナ王国と何を目的として接触したのですか?ちなみに私は国王陛下の名代として来ているため、この場では国王陛下と同等の決定権がありますよ。」

「目的ですか?大きいもので三つですかね。一つ目は互いの国についての細かい情報の交換、二つ目は外交窓口の設置、そして、三つ目は正式な場で国王同士での会談の実現です。」

「なるほど、私たちが求めていることとほぼ同じですね。概ね同意ですかね。一つ目の情報については我が国では今最重要とされていることですから。貴国もでしょう?」

「そうですね、それは我が国も同じです。情報に関してはこちらは文官を連れてきておりますのでそちらに対応させたいのですがよろしいでしょうか。」

「はい、こちらも文官が対応します。バロールレ、ヘカテリア王国の文官の方を我が国の文官のところに案内してください。」


 ルナがそう言うと、私たちをここに案内した方が私たちの文官を砦の奥に案内していきます。


「外交窓口ですがこちらはどうしましょうか。」

「そうですね、こちらはこの砦までは連絡手段があるため、この砦に外交の連絡を送れませんか?この砦に連絡の者を置いておくので。」

「そうしましょう。最後に正式な会談についてですが、こちらは日程の調整などを外交窓口を通して行う形でよろしいですか?」

「はい、そうしましょうか。」


 その後も、私とルナのお姫様としての会談は続いていきました。


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