第3話:ルナ王女とエクスマキナ王国
「リアルタや、これはどうしたらいいんだ。」
「ジョイア陛下、今はとにかく整理するための情報が足りません。」
そんなジョイア・エラ・エクスマキナ国王のつぶやきに対してそう返したのはエクスマキナ王国の宰相であるリアルタ・クレートであった。
「陛下、私からも情報を。国境警備隊からの報告によると交代で警備にあたっていた者もみな十二時くらいに意識を失ってしまっていたようです。目を覚ました時には国境から先の地形が見たことのないものになっていたようです。」
そう報告するのはエクスマキナ王国軍参謀本部長であるバロールレ・フレッタである。
「またケーブルの通ってた場所や鉄道のレールについて、国境線を境に分断されてその先が消滅してしまったとの報告が入っております。現在、諸外国との連絡が取れないのはおそらくこのためと思われます。他にも国内でも平原が丘陵地帯になってしまっているなど、地形の変化が確認されています。」
「少なくとも我が王国が他の国と隔絶されている環境にあるのは間違いないのだな?」
「恐らくは。」
そのような問答を繰り返した後、王はこう決めた。
「今すぐにスペランテ、パレンタ、あとあの問題児を呼んできてくれ。少し話をしたい。」
***
私は昨日フレアと話したあとに自室に戻るとすぐに寝てしまいました。そして、寝ていたところを叩き起こされて今すぐに王城のお父様の執務室に来い、との連絡を受けました。
執務室に着くともうすでにお兄様とパレンタはすでに待機していました。他にお父様、リアルタ公爵、バロールレ公爵もいらっしゃいます。
「やはり一番来るのが遅いのはルナだったか。」
「・・・やはりとはなんですか。」
「いつもそうではないか。集合をかけるといつも遅い。直前まで実験をしてたのか、それとも夜遅くまで実験してたせいで寝てたのかはわからないがな。」
「…そう言われると否定できません。」
実際問題、そうなのだから否定はできないのです。
「まあ、今はそのことはよい。そなた等に聞いてほしいことがあるのだ。」
そうお父様は切り出すと、今この国に起きている異変についての説明をした。
「で、だ。何かこの異変について意見はないか?」
「少なくとも今の王国は孤立無援の状況に置かれていると考えられます。また、地形が変わってしまっている、とのことだと畑などの状態もわからないため、そちらについても食料問題の観点から調査すべきかと。」
「俺は外交状況がわからない以上国境の警備を手厚くするべきだと思います。」
お父様の問いに対して、お兄様とパレンタはそれぞれこう答えました。
「ルナは何かないか。」
そう聞かれたとき、昨日出会ったフレアの存在について話すかどうか迷いました。しかし、その迷いも一瞬のもので、そのことを言うことにしました。
「昨日の夜のことです、私は少女と出会いました。その子はフレアニアと名乗り、ヘカテリア王国から来たと言っていました。そして、魔法で空を飛んでいました。」
その発言を境に部屋中が静まり返ってしまいました。しばしの沈黙を破ったのはお父様でした。
「ヘカテリア王国?それに魔法だと?そんな国は知らぬし、魔法なんてこの世界に存在しないはずなのでは?とにかく、ヘカテリア王国か、間違いないのだな?」
「はい、間違いありません。彼女はそう言いました。」
「別れたときに彼女はどの方角に向かった?」
「日が昇る方向だったはずなので多分東かと。」
「そうか。では国交を結ぶために使節を送ってみるのがよかろう。我が国以外に国が存在するのであればその国と接触して知る必要があるだろう。」
そのお父様の一言でヘカテリア王国への使節の派遣が決まりました。そこでこの話は終わりかと思いました。
「で、だ。ルナよ。」
「なんでしょうか、お父様?」
「ルナは一回ヘカテリア王国の住民と出会っているということでいいのだな?」
「はい、そういうことになりますが…?」
何かものすごく嫌な予感がします。
「では、使節としてルナ、そなたも行ってもらうぞ。」
「なんでですか!私から研究の時間を奪わないでください!それくらいならお兄様でもパレンタでもいいじゃないですか!」
何故か使節の中に組み込まれそうになりました。とっさにお兄様とパレンタを売り払おうとしました。
「実際に出会ったことがあるのだろう?ならば私よりも適任だろう。少なからずヘカテリア王国について知っているのだから。」
「俺も兄上に同意です。」
しかし、売り払おうとした二人にそう返されてしまいました。
「実際、これを拒否したい理由も研究なのであろう?もう少し合理的な理由であればよかったのだが。そもそも王族としての執務を研究よりも優先するという話であろう?」
お父様のその一言が止めとなりました。その後、国境の警備についてや国内の調査などの様々な話題についての話し合いが行われました。しかし、私はヘカテリア王国と国交を結ぶための使節として派遣されることになってしまったことで頭がいっぱいです。ああ、私の研究の予定が…。
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