花園の終わり

時代:1921年(大正10年) 3月末

舞台:海岸沿いの崖の上

 

登場人物:

 A(華族かぞくの娘、家の爵位しゃくいは侯爵、先日女学校を卒業した。親に決められた婚約者がいる)

 B(華族の娘、家の爵位は子爵、Aとエスの関係、在学生)

 

 解説は最下部に。

 

 

本編

 

 A「Bさん、先程の甘味かんみはいかがでしたか?」

 B「はいお姉様、とても美味しゅうございました」

 

 A「こらこらBさん、もう私はあなたのお姉様ではないのですよ」

 B「ですがお姉様、私はもうお姉様のいない生活は耐えられそうにありませぬ」

 

 A「卒業した以上エスは終わり、この二年間はとても楽しかったですわ」

 B「私もですお姉様、お姉様のお目にかけていただいた時は本当に私で良いのかと不安になった程です」

 

 A「あらあら、そんな事を考えていたんですの」

 B「なにせお姉様は侯爵家こうしゃくけの者、対して私は子爵家ししゃくけです。本来なら話しかけることもいとう相手」

 

 A「確かに、本来なら私達のような華族かぞくの娘には、親が決めた友人とお付き合いすることしか許されません……ですが、女学校でしたらそのような事はあまり関係がなくなりますわ」

 B「おかげで、私と最後の時を選んでくれた事を喜ばしく思います」

 

 A「あら、最後の時を愛おしい人と共に過ごしたいと思うのはつねではなくて?」

 B「まあ、婚約者様には聞かせられないお言葉ですわ」

 

 A「婚約者の彼とはまだお会いした事ありませんわ、お会いしてしばらく過ごせば多少は愛おしく思えるのでしょうが」

 B「確か、それなりにお年を召しておられるとか。そうなるとますます交流が難しいですね」

 

 A「今年で51だそうです」

 B「お姉様、正直なところ、私はそのような殿方とのがたにお姉様が手篭てごめにされる姿は見とうございませぬ」

 

 A「私もです、だからこそ海に来たのです。もしかしたら心変わりするかもと他愛たあいもない話をしましたが、やはり変わりません」

 B「私の決意は変わりませぬ、お姉様と共に参ります」

 

 A「ありがとう、愛おしい妹。今は丁度満潮みちしお、共に海の底で結ばれましょう」

 B「はい」

 

 A「三つ数えたらここから飛び降ります……3」

 B「2」

 A&B「1」

 

 

 

 解説

 

 華族:日本における貴族。公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の五階にわかれている。

 

 エス:百合のこと。SisterのSをもじっているからエスと呼ばれていた。百合アニメなどでよく見るお姉様と妹が本当に行われていた。

 

 女学校:当時の女子生徒にとって学校は親や家から離れられる数少ない場所であった。それゆえかエスが流行したりしていた。

 無論全員が全員本気だったわけではないが、一部の本気でエスをしていた女学生達は、エスの相手と結ばれず、卒業したあと親に決められた婚約者と夜伽よとぎをする事を嫌い自殺する者が耐えなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

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