文芸部の二人

舞台背景: 夜の文芸部(場所は学校の部室だったり別棟の部屋だったり雑居ビルの一室だったり自由)

 

登場人物: A(文芸部元部長、卒業を控えている) B:(後輩、現部長)

 

 

 

 

A「早いもので、この文芸部にいられるのもあと一月ひとつきだね。いやはや歳月人さいげつひとを待たずと言うが、全くその通りだ」

 

B「自分にとっては烏兎匆匆うとそうそうそのものでしたよ」

 

A「よく勉強しているじゃないか、感心感心」

 

B「これもAさんのご指導の賜物たまものですよ」

 

A「うむうむ、もっと褒めてくれたまえ。そうすれば私はもっと喜ぶ」

 

B「え、嫌です」

 

A「きさま!

 それはさておきこんなやり取りもあと僅かと思うと、げにも寂しきかな」

 

B「そうですねぇ」

 

A「私はこんな学校嫌いで嫌いで仕方なかったんだが、今となっては君と肩を並べて歩いたビニル床の廊下もいとおしく思えてくる」

 

B「そう言えばAさんはよく転んでましたね」

 

A「部長命令だ、忘れなさい」

 

B「今は自分が部長です」

 

A「ぐぬぬ」

 

B「この部屋も思い出深いですね、Aさんとはよく意見が対立してました」

 

A「アガサ・クリスティの作品とかな、まあ当然ミス・マープルが至高なのは言うまでもない事だが」


B「いえいえ何をおっしゃる。超人気作のエルキュール・ポアロに決まってるでしょう、何作でたと思ってるんですか」

 

A「ミス・マープルはアガサ・クリスティ本人がもっとも入れ込んだ作品だ、アガサ・クリスティを語るならミス・マープルを軸にするのは当然だろう?」 

 

B「平行線ですね」

 

A「そのようだね。しかしこのやり取りも中々好きだよ私は、さっきも言ったが私は学校が嫌いでね、でも君と過ごしたこの数年は実に楽しくてね、まさに充実していたよ」

 

B「こちらも同じ気持ちです」

 

A「それは嬉しいね、ところで今日はバレンタインだが、実は君のためにチョコレートを用意してるんだ。この私があらゆるレシピ本を読み込んで完璧に理解して」

 

B「まさか手作り!?」

 

A「全てを諦めてデパ地下で買ったチョコレートだ」

 

B「あ、はい」

 

A「安心したまえ、愛はこもっているぞ」

 

B「そう言われると照れますね」

 

A「照れたまえ照れたまえ、私も照れてるからな! 見るがいい、顔が真っ赤だ!」

 

B「ほんとだ」

 

A「チョコを受け取ってくれないか? 誇張抜こちょうぬきに、君と過ごした日々は私の青春の全てと言っても過言かごんではないんだ。その感謝も込めて」 

 

B「いただきます。なんだかこっちも赤くなってきましたよ」

 

A「それで、Bさえ良ければなんだが……これからも私の青春に付き合ってもらえないだろうか?」

 

B「えぇ、まあ、連絡先交換してますからいつでも呼んでいただければ」

 

A「ふむ、君はもう少しかんが良いと思っていたんだが、よろしいならばもう少し直接的に言おう」

 

B「何をです?」

 

A「文芸部の君ならこれから私の言うことの意味がわかるだろう?」

 

 

A「B、今夜は月が綺麗だな」

 

 

B「下記の①〜⑦から選択」 

 

 

 ①あえて返答せずそのまま終わる

 

 ②死んでもいいです

 

 ③まだ死にたくありません


 ④自分にとって月はずっと綺麗でしたよ 

 

 ⑤Aさんと一緒に見るからですよ

 

 ⑥手が届かないものですから

 

 ⑦星の方が綺麗ですよ

 

 

 

 ②〜⑦の意味はあえて書かないことにする。

 


 

 解説

 

 歳月人を待たず(さいげつひとをまたず):月日は過ぎやすく、機会を失いやすい。時は人を待たず

 

 烏兎匆匆(うとそうそう): 歳月が慌ただしく過ぎる事の例え

 

 アガサ・クリスティ:ミステリークイーンと呼ばれるミステリー作家、代表作に「エルキュール・ポアロ」「ミス・マープル」「そして誰もいなくなった」がある。

 

 今夜は月が綺麗ですね: 夏目漱石が考えだした告白の言葉、割と雑い。

 

 

 

 

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