苺
世界で一番愛された人間の誕生日でも、人は人を殺せるらしい。
午睡から目覚めた私の耳に、点けっぱなしのテレビが殺人事件の詳細を語りかけてくる。
凶器は包丁。寝込みを襲ったらしい。動機はとても単純で、誰もが持ちえる感情だった。
犯人である父親は、私の父と同い年。被害者となった息子も、私とそう年齢が変わらなかった。
炬燵の中からリモコンを掘り当て、チャンネルを変える。しかしそこでも別の殺人事件が扱われていて、私はテレビの音だけを消して、炬燵の上に額を置いた。
平日のクリスマス。夕暮れ近いアパートには、私以外に人の気配はない。淡く湯気を放つ加湿器だけが静かに音を立てている。
殺人事件の半数は身内の犯行という話を思い出していた。隣人を愛せよ、という世界の三分の一の人間が知っている言葉も、今は皮肉に思えてしまう。
その言葉一つで殺し合う家族が無くなるのなら、その言葉を残した人間はまさに聖人なのだろう。しかし現実として殺し合う家族は後を絶たない。人は今も残酷なままだ。
顔を上げると、食べかけのケーキが目の前にあった。
赤く、乾いた苺に突き立てられたままのフォークを、私は祈るように見つめている。
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