薄荷

 お揃いのグラスにカクテルを注いで、二人で育てたミントを散らす。ありあわせの材料で作ったパスタとサラダをテーブルに運び、二人分の食器を並べていると、匂いを嗅ぎつけた彼女が待ちきれない様子で部屋から顔を覗かせた。


「食べよー」


 そう声を掛けると、眼鏡を掛けたままの彼女がリモコン片手に部屋から出てくる。平日に録り溜めたアニメを消化すると部屋に籠ってから、顔を合わせるのは数時間ぶりだった。


「手抜きでごめんね」

「んーん、私これ好き」


 席に着いた彼女はいただきますと言うが早いが、いそいそとパスタを巻き始める。二日酔いのため昼食をパスした胃袋空っぽの彼女には、ニンニク増し増しペペロンチーノの香りは酷だったのかもしれない。忙しなくフォークをくるくるさせる彼女はおあずけから解放された子犬のように愛くるしくて、どこか危うい。


「もう二日酔いは大丈夫なの?」

「うん、もう大丈夫。快復祝いの乾杯しよー」

「はいはい」


 グラスを当てると、その揺らぎの中へミントの葉がゆっくりと沈んでいく。

 何の予定もなく過ごした土曜日の夜。悪戯にミントの葉を咥える彼女に、私はまた酔い始めている。



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