熟す
彼女の好みはとろとろの半熟。私の好みはこちこちの完熟。同棲する上で死活問題になりかねない食の好みを、彼女が得意げな笑顔であっさりと解決してくれた日のことを、私は今も覚えている。
フライパンひとつで完熟と半熟の目玉焼きを同時に作る。そんなピーキーな特技ばかり有する彼女は、家事的なことがあまり得意ではない。トースターにパンを入れるのにも手こずる程度の不器用さも相まって、彼女がキッチンに立つことは滅多にないのだ。
「そろそろ焼けるから、テーブルの上、片付けて!」
トースターのコンセントが入っていないことに彼女は気付いているのだろうか。いや、あの顔は確実に気付いていない。フライパンの上の目玉焼きに完全に集中してしまっている。
休日。油断した私が寝坊すると、こうして彼女がキッチンに立っていることがある。空腹に耐えかねての行動なのだろう。私を起こしてくれればいいのに、何故かそれだけはしたくないらしい。
「もうちょっと焼いた方がいいかなー」
私はこっそりトースターのコンセントをプラグに差し込むと、テーブルに広げるだけ広げられたレシピ本を、淡々と片付け始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます