第27話 ――の夢
今グラシアムのいるのは黒い世界、ただ地面に立っているような感覚はないものの自分が地面に立っていると理解している不思議な世界であり、この世界は夢だと理解できる。周りを見回すとそこには誰かがいた。それは長く白い髪の女性であった。その子は小さく丸まって声を押し殺してと泣いている、どうしたのだろうと近づき声を掛ける。
「どうしたんですか、何かあったのですか。」
彼女はこちらに気づきこちらに顔を向ける。なんとその顔はのっぺらぼうであった、だが私はとても愛おしいものとして感じている。それはとても不思議であり、恐怖心や畏怖と言ったものが先に立つことがなかったのだ。彼女はすすり泣きながらも答えてくれた。
「あの人が死んでしまった……どうしてこんなことも許されないの。」
「それは、お気の毒です。」
「どうして、どうして私と一緒に生きていけないのよ……。」
「その人のことを教えてもらえませんか、気持ちは吐き出せば少しはマシになるかもしれませんよ。」
彼女の横に座り込み、彼女の顔を見る。目や口といったものはないもののその人のことをよく理解できる。この人はとても近い人間であり、ほぼ同一の存在であると何故か理解していた。
「……そうなの?私、あんまりこういったことも 言われたことのない人生だったから。」
「まあ、そういわれてるって感じかな。それで名前は?」
「私の名前は――だ。よろしく。」
崩れた言葉は意味だけを伝え、彼女の名前は不思議な縁でつながっているのだろうか。今ではそうそういない名前がここに二人もいるのだから、早々ないことだ。
「――ね、ありがとう。私はグラシアム、こちらからもよろしく。それでなんで泣いていたの?」
「私は、あの子を抱いて逃げたの。あの人を置いて。」
そうなんだと相槌を打ち、聞いていれば彼女の告解にも似た言葉の数々を話してくる。
「勝てるはずの戦いだったのだけど、私が逃げたばかりにみんな死んじゃったの。私が逃げたばっかりに……。」
「逃げちゃったんだね。でもわかるかな、私も似たような事あったし。」
そうだ、父が死ぬ前あの時握った拳銃を撃てずに逃げたあの頃のことを思い出す。あの時撃てれば少しは一緒に過ごせたのだろうか、今では途方のない過去の話であった。
「そうなの、貴方もあるのね。」
「うん、そして後悔ってのは後で活かすために存在してるって思うんだ。だってそうじゃないと死んだ人が浮かばれないでしょ、そうしないと死が無価値になっちゃうしさ。」
「死を無価値にさせないか、そうね、そうだ。いつまでもクヨクヨしていては魔女の名折れだよな。」
急に語調が強くなるものの、彼女の本来の姿に戻ったというべきか。まあ第一に立ち直るための一歩を踏み出していたことは素直に嬉しい気持ちが心を満たすのであった。
「……決めた、私は決めたぞ。するべきことをするのだ!グ――アムよ、ありがとう。お前のお陰で”この先”どうするべきかわかった。そしてまた会いましょう。」
彼女は立ち上がり、深い深淵の中へと歩いて行く。その後ろ姿は彼女の力強さがその歩き方から感じ取れる。小さなお悩み相談室も終えたことだし、私も帰る時であった。
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