4(終)
無敵ちゃんが家にきた。猫背は改めて直接謝り、1750円しっかり耳揃えて返した。
そしてまた以前のように、いや、以前より仲よさそうにデッサン講座が始まった。心なしか無敵ちゃんの表情が以前より明るい。
猫背も真剣な顔で時に雑談も交えながら熱心に練習していた。絵のことはよくわからない俺でも上達したと思える出来だった。
「かなりいい感じだよ!」
「えへへ」
「じゃあ今日は別の題材描いてみよっか」
別の題材……だと!?
「別の題材?」
「うん。ずっとりんごだと飽きてきちゃうでしょ?それに違う質感とか形のものも練習した方がいいかなって」
おいおいおいおいおいじゃあ俺は!?俺はどうなるんだ!?
「何を描くの?」
「そうだな……身近なもので十分だけど、形がわかりやすいって言うの?りんごみたいに”まる”みたいな」
じゃあリンゴでいいだろ!
「うーん……あ!トイレットペーパーとかどうかな?まるいよ」
「いいね。リンゴと違ってツヤツヤしてないしいい練習になるね!けどトイレットペーパーに行く前に休憩しよう」
「うん、そうだね!あ、このリンゴ――」
嘘だろ……まさか……まさか……
「食べちゃおう!切ってくるね!」
やめろ!やめてくれ!誰のおかげで無敵ちゃんと仲直りができたと思っている!誰のおかげで絵が上達したか忘れたのか!やめろ……やめてくれ……
悲痛な叫び届かず俺を持ってキッチンへと進んで行く。テーブルに置かれる。もしかして別のリンゴをなどと淡い期待を抱いたのも一瞬だった。
まな板を用意しその上に包丁の柄を左向きにおく。
絵を描いてるのを見てたけど左利きだったなこいつ。全く意識していなかった。こんな時になって気がつくなんてな。
ふわっと体が浮いてまな板に着地する。ここまでか。綺麗なまな板の上で最期を迎えられることは光栄なのかもしれない。大往生と呼べるだろう。
しかし俺は人間に戻りたい。戻ってやりたいことが山ほどある。待ってくれ!もう少しだけ――
――ストン
隠キャぼっちマン友達なしの俺が転生して女子高生と一つ屋根の下!? @humster_ster
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