3
あれから2日経とうとしている。
今更だが、今は夏休みらしい。だから何日かに渡ってデッサンの練習をする予定だったのだろう。しかし無敵ちゃんは来ていないし猫背も部屋で宿題をしているがうわの空だ。頻繁にスマホを見ている。無敵ちゃんから連絡がないか期待しているのだろうか。絶対猫背から連絡するべきだと思うぞ。
俺はと言うとデッサン講座がないので窓際に置かれている。時々猫背が手に取って眺めたり拭いたりしてくれる。
無敵ちゃんと喧嘩したあと、デッサン講座も無くなっていよいよ食べられてしまうのか、と絶望しかけていたが2日経った今でもこうして元気にしている。
デッサン講座の続きがしたい。仲直りしたい。そういう気持ちの現れだと思っている。
猫背は俺を手に取りゴロリと寝っ転がる。向きを変えながら俺を見つめる。
謝れ、猫背。お前から。努力を軽く見た事、時間を守らなかったこと。あとお金を返せ。時間が経てば経つほど言いづらくなるぞ。
届くはずないのに念じた。
俺が人間だったころ、似たようなことで喧嘩した。細かいことはもう覚えてない。覚えているのは、喧嘩した相手とはもうそれっきりになってしまったこと。
最初のうちは謝ろうと思っていた。”俺が悪かった。ごめん”と。
でもきっかけが掴めなくてズルズルと来てしまい今でも言えていない。どこで何をしてるかも知らない。
きっかけ、なんて言い訳だった。ただ俺が逃げていただけだ。ごめんなさいなんて大仰なこと言わなくても何となくまた元のように戻れるかもしれないと根拠もない淡い期待を抱いて。
ああ、あいつ元気かな。会えたら今からでも言おう。あの時はごめん――って言えないか。リンゴになっちゃったし。
絶望した。俺は遅すぎた。全てが遅すぎたんだ。取り返しのつかないことになってから気が付いた。なんと滑稽なことだろう。
俺の絶望なんて知りえない猫背は、俺を机の上に置き今度はスマホの画面を見つめている。
時々何か文字を打っては消して、また打って。あーでもないこーでもないと考えているようだった。
相手は無敵ちゃんだろうか。仲直りをしようとしているのだろうか。そうであってくれ。
そんなにアレコレ考えなくったって、ごめんの一言があればそれでいいんだ。
突然猫背の手の中のスマホが震えて着信音が流れる。驚いて落とした。画面に表示された文字を見てまた驚いた。きっと無敵ちゃんなのだろう。
猫背は一瞬躊躇ったあと電話に出た。
「……はい。……あ、あの、ごめんなさい!ずっと……言わなきゃって……」
「ううん……私が無神経なこと言ったから……」
「うん、じゃあまた明日ね!あ、お金1750円だったよね?明日返すね!……うん、じゃあまた明日!」
俺が心配するまでもなかったようだ。彼女らには未来がある。いくらでも変えられる。俺とは違って。でもせめて、俺の分まで幸せになってくれたらいいなと願うばかりだ。
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