第44話

本来であれば盗賊討伐依頼を受け、盗賊を殺しに…という手順なのだが今回に関してはすっ飛ばしてしまっている

形としては別の依頼を受けている途中に偶然盗賊に遭遇した。となるのだが、人型害獣のせいで色々ややこしくなってしまった


とは言え盗賊にしても人型害獣にしても、報告しない訳にはいかないので討伐者役所にやってきた

討伐者役所とは依頼の受注と発注を主に行っている文字通りお役所仕事である

他には討伐者試験や、討伐者カードの更新などの業務も行っていて地球でイメージするなら市役所が1番近いだろうか


この世界は転移者から伝えたられた知識や技能を取り込んではいるが、やはり異世界並感というか貴族制度というものが未だに生き残っている

その為平民には読み書き計算などの知識を得る機会はなく、討伐者役所で働く職員は貴族がそのほとんどを占めている


討伐者は転移者を除けば平民が殆ど、その為職員は討伐者を見下している

とは言え彼らも討伐者が害獣を倒してくれているお陰で助かっているのをわかっている為、Cランク以上の討伐者には真面目に対応する


とは言えあからさまに何かをされる訳でもなくなんか感じ悪いわ、くらいなので別に気にしなければ特に何も無い


その事が分かってた俺は取り敢えず報告はしたという結果だけ残したかったんだけど…


「だから!!ちゃんと話を聞いてくれよ!」


人型害獣のより詳細な話をしてもらおうと連れてきたけど失敗だったか…


「だからよ…聞いてるって言ってんだろ?上にも報告するつってんのに何が不満なんだよ」


「それが話を聞く態度か?ふざけるなよ!!それにこれから上に報告してじゃ遅いって…」


どうやら剛には職員の態度が気に食わなかったみたいだ

まぁ、そうか。実際にあの力を目の当たりにして目の前で同級生を殺されたんだ!思う所はあるだろう

でも…


「いいよ、剛。もう行こ」


「でも!!こんなのって!!どれだけ被害が…」


そう、このまま人型害獣に対して何もしなければ被害者はどんどん増えていくだろう

どのレベルの討伐者なら倒せるのかも分からないし、そもそも俺が来た時点で逃げるあたり警戒心もかなり高そうだ


だから俺は報告だけして動かなかった討伐者役所へ責任を追求したい、使えるカードを増やす為に

あわよくば俺が討伐までしてしまいたいけどそこは何とも言えないしな…


なんて打算的な考えを抜きにしても、結局彼らは話を聞いてはくれない

そもそもEランク討伐者が戦えるような相手、ましてや人数が増えたら逃げてしまうような害獣が危険とは思わないだろう

それに職員のスタンスはいつも同じ、話を聞いて欲しいならCランクより上に上がってからこい!だ


悪いのは彼らではなく国そのもの、もしくは制度なんだけど

今回はそのせいで多数の被害が出る事となった


翌日から奇妙な事件が起き始めた

Eランク、Dランクの討伐者が依頼を受けたまま行方不明になるという事件


そもそも討伐者という職業は死と隣り合わせである

文字通り命懸け、死者、行方不明者は少なくない

それでも討伐者になる者達はCランク以上の安定した生活を夢見て戦い続ける

でも結局転移者達のようなスキルに恵まれない者が多く

夢半ばで倒れるもの、挫折し諦めるもの、盗賊などに身を落とすもの、と様々であった


話は逸れたが、下位ランクの行方不明は少なくない

その為、誰も気にしない

家族は心配するだろうが、そもそも討伐者となった時に覚悟を決めている者が多い


行方不明者は依頼を受けてから1週間報告がないままだと行方不明者リストへと載る

そしてさらに1ヶ月経つと死亡者扱いとなる


その為、討伐者役所がこの異変に気付いたのは俺達が報告してから9日後のことだった


最初は行方不明者がいつもよりちょっと多いなってレベル

次の日もまた増えた、珍しいがない事ではない為、放っておいた

だが、その次の日もまた増えた

ここでようやく明らかな異常に気付く

だがもう遅い、その時には行方不明者リストだけでなく3日以上報告が無いものを合わせたら100人以上となっていた


これだけの被害が出るというのは災害指定害獣に匹敵するレベル

それでいて未だに敵の姿すら分かっていない

事の重大さにようやく気付いた


ここでようやくDランク以下の討伐者へ外出禁止令が出された

そしてCランク討伐者には各街の警護を、Bランク討伐者には害獣の捜索を指示した

Aランク討伐者は…そもそもの数が少ない上変わり者が多く、どこにいるのかも分からない為連絡を取るのすら難しいそうだ

だが目に見える危険が迫ったらどこからともなく現れるらしい


そして俺は、討伐者役所へと呼び出されていた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る