第43話
2周目になってから初めて全力を出した
……そう、焦っていたってのもあるのかもしれないが、初めて全力を出したのだ
俺は日頃から3人に言っていた、急に上がった能力値は上手く使えないから全力を出さずほどほどに抑えて慣れるように、と
そりゃそうだろ?
いきなり身体能力2倍です!!なんて言われて上手く動けるやつなんてそうはいない
そんな事が出来るのは一握りの天才達だけだ
そしてどうやら俺は天才ではないらしい…
だから俺が全力を出した…全力で剛の所へと移動したと言えば、何が起こったなんて言うまでもないだろう
場所は山の中、木がたくさん生えている
全力で走った、そこまではいい
めちゃくちゃ早く驚いたが思っていたより上手く走れた
そして数秒もしたら剛の近くまでやってこれた
うん!素晴らしい
ここで俺は気付く
急に止まれなくね?と気付いた俺は両足を地面に接地させブレーキのようにする
地面は抉れるが止まらない
もう少しで剛の所だ…減速はしてるけど止まらない
はぁ…仕方ない、俺は右足を前に出し木へとぶつける
ドゴォン!!
鈍い衝撃音が鳴り響く、がまだ止まらない
俺の右足は木をなぎ倒した
2本、3本となぎ倒し4本目…ようやく俺は止まった
なんて酷い登場の仕方だろうか?
剛の方を見る、よかった無事だ
少し俯いて元気がないけどこれだけ強そうな相手と対峙していたんだ無理もない
むしろ俺が木をなぎ倒したの気付いてなくね?
俺は最大限取り繕った
「よく耐えた、待たせたな」
剛は俺の方をちらりと見た
「和泉…早かったな」
さてバカみたいにでかい魔力反応の奴はどこに…?
………
俺はわざとらしく周囲を見渡すが誰もいない
そりゃそうなのだ
気配察知スキルにも魔力反応がなくなっているんだもの…
だがもしかすると魔力反応を消す類のスキル、もしくは能力があってもおかしくはない
「剛、敵は?」
一応確認しておこう
「……ふぅ」
剛は俯いたまま一息吐いた
そして顔を上げるといつもの剛がいた
「誰かさんが木をなぎ倒しまくってる間に逃げたぞ」
………
逃げられた挙句、木をなぎ倒してたのも見られていた
全くもって最悪の展開ではないか…
「どうする?」
どうすると聞かれても場所が分からないのに闇雲に探しても仕方ない
取り敢えず…
「皆と合流しようか、そこで敵の話も聞かせてくれ」
皆と合流すると俺が思っていたより重たい空気が流れていた
そりゃそうか…元とはいえクラスメイトが死んだんだ、仕方ない
なんて思っていたが俺の想像していたのとは別の理由で皆は沈んでいた
俺はあらかじめ何かあった時は洞窟に隠れるよう傑に伝えていた
裕二達と合流した時、疲弊している山本を休ませる為に洞窟に入ったそうだがそこには…盗賊と思われる者たちの死体が無数に転がっていた
それらは体の一部が欠損しているものが多く至る所に血が巻き散っていた
それをやったのは考えるまでもなく先程のあいつ…なのだろう
裕二や初島、山本は何度も吐いたのだろう少しげっそりしている様子が伺える
まぁ確かにその光景は普通の高校生が見れば凄惨なものと感じるだろう
吐いてしまうのも無理はない、そもそも俺はこういう経験をしてもらう為に今回の提案をしたという部分もある
本当は直接手を下してもらうつもりだったし…
だから彼が「惨い」「可哀そう」「酷い」などという感想を呟いたのが俺にはどうしても共感出来なかった
盗賊達に酷いことをされていたはずの山本までもが同じような事を言っていたし…
彼らはいつまで守り育てられてきた「学生」気分なんだろうか?
ここには守ってくれる親も警察もいない
自分の身を守れるのは自分だけ
力なきものは蹂躙され殺されるだけだとまだ理解出来ていないのだろうか?
死んで当然の事をしてきた盗賊達に対して「可哀そう」だなんて思う程の余裕が何故あるのだろうか?
何年も先、死ぬかもしれない未来について俺は伝えたよな?
その為に強くならないといけないって伝えたよな?
なんだ…結局2周目になっても俺は一人なのか
諦めにも近い感情が俺の心を埋め尽くすが一旦は考えても仕方ないから諦め、山本と剛の話を聞くことにした
山本の話は大筋1周目のものと大差なかった…途中までは
石山と山口という男子2人と桜井で男女4人のチームを組んでいた
何度も討伐依頼を受けていた彼らは慣れもあり、今まで受けていたものより少し格上の依頼を受けた
依頼自体は何とか達成出来たが全員が疲労困憊の状態で運悪く盗賊に遭遇、男子2人はなんとか山本達を逃がそうとしたがあっけなく殺され山本達も捕まった
2人とも容姿はいいので殺されることはなかったが、盗賊の慰み者として今日まで生かされてきた
ここまでの話を聞くと本来、早瀬であったポジションに桜井がいるだけの話なのだがここからの変化が大きすぎる
偶然か、運命か?たまたま俺たちが行動を起こした今日この日
盗賊達が何者かに襲われた
その何者かは想像通り剛が戦った敵と同じだという
そんなことは1周目では起きていない
盗賊達を殺すのは本来、俺たちだったはず…
それにその敵が人型の害獣だという
そんなのは見た事も聞いたことも無い
ここまで大きく歴史が変わるんなんて事有り得るのか?これじゃあまるで別の世界に飛んでしまったような…
でもこの結果を引き出したのは俺
どれがトリガーかは分からないが俺のやった事で未来が変わっているという事実
「未来を変えるという事」改めて自分がやろうとしている事の大きさを再確認した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます