第42話
挑発はしたが、人型害獣の気をこちらに向ける事さえ出来れば良かった
…ので目的を達成したら後は全力で逃げるっ!!
本当は気配を殺して逃げてしまいたいが、それをやってしまうと折角人型害獣の気をこちらに逸らしたのに無駄になってしまう可能性がある為出来ない
リキャスト時間まであと4秒…
4秒なんて普段であれば一瞬で過ぎ去る時間だが今日この時に限って言えば何十秒、何分にも感じられた
だっておかしいだろ?
怯んでる間に全力で逃げたにも関わらず、すぐそこまで来ているんだから…
人型害獣、人型と言うくらいだから高度な知能を持っているのかと思ったがそうでもないらしい
今だって直線的な攻撃をしてくれるから俺はなんとか避ける事が出来た
あと2秒…どうする?詠唱してしまうか?
「我が魔力…」
俺が詠唱を始めると人型害獣はかなり警戒した様子でこちらの動きを観察する体制に入る
前言撤回、一回食らっただけで危険性…
自分にダメージを与えられる攻撃を理解し、最大限警戒する
こんなのほとんど人間と同じ思考回路じゃないか
だが、ただの防御魔法であるシールドを攻撃と警戒してくれるならこちらとしてはやりやすい
「盾となり、我が身を守りたまえ、シールド!!」
人型害獣はシールドを警戒している為、動いてこない
これならリキャスト時間までの時間を稼ぐのは容易い
シールド張りまくって和泉が来るまでの時間を稼いでしまえば俺の…
ここで大倉剛はふと気付く
和泉が来るまでの時間を稼げばいい?
和泉が来てくれれば大丈夫?
俺は…ついさっきまで和泉への不満を募らせていたのにそんな事を考えているか?
しかも無意識で…
さっきの裕二へ言った言葉もそうだ
「なるべく早く和泉を連れてきてくれ」だと?
確かにこの世界にやってきた和泉は異様な強さを見せている
半信半疑だったがリセットボタンというスキルを使って一度この異世界生活を経験したというのも本当なのだろう
だからって無条件で和泉を頼りすぎじゃないか?
これほどの化け物を和泉一人に戦わせようとしてたって事だろ…
これじゃあ…
俺は、あっちに…地球にいた頃と何も変わってないじゃないか
いつまで経っても弱いままじゃないか
何が「勇者」だ、何が「主人公みたい」だ
ただ色んなことがちょっと上手く出来るだけで…
生まれたときの容姿に恵まれただけで…
俺自身には何もないままじゃないか…
俺は…俺は…
こんな所で逃げて助けを待つだけの人間じゃ…
世界というものは、物語というものは時に残酷で
登場人物が、キャラクターが自身の生きてきた中で最大の決心をしたからと言って、必ずしも報われるとは限らない
シールドは現状1枚、リキャスト時間は終わったいつでもシールドは張れる
俺に他の皆のような攻撃魔法はない
和泉のような強さもない
それでもっ!!
シールドの横から一歩踏み出して、駆け出す
それだけなのにその一歩が出ない
なんで!!なんで!!
俺はこの期に及んで怖がっているのか?
足を動かそうとしたがプルプルと震えて動かない
それがまるで泣きわめく子供のようにヤダヤダと駄々をこねているように見えた
俺は…弱い
こんな形で自身の弱さと向き合うことになるなんて想像もしていなかった
だがそんな彼に手を伸ばすのは希望を与える女神などではなく、居心地のよいぬるま湯へと誘う悪魔の手であった
「よく耐えた、待たせたな」
今一番来て欲しかった相手であり、今一番姿を見たくなかった相手
「和泉…早かったな」
幸いだったのは彼が人の感情の機微に聡くないということ
今の剛がたとえどれだけひどい表情でぐちゃぐちゃな感情のやり場を失っている顔していても気付かない
声が掠れていて元気がなく、今にも泣きだしそうだとしても気付かない
語弊がないように言っておくが彼は誰に対してもそうである
自身が親友と呼ぶ3人に対しても、自身が密かに想いを寄せる相手にも同じ
注意して見れば気付くのにそれをしない
ただひたすらに鈍感で、ただひたすらに正しく…
普段なら気にならないその性格、気付かれなくて助かったと思ったはずなのに
今の剛にはまるで「お前には興味がない」と言われている感覚になった
――少し前に遡る
剛達に行ってもらった方の少し大きいくらいだったはずの魔力反応が急に跳ね上がった
そして…逃げていた反応のうちの1つが
……消えた
逃げていたのが山本と決まった訳ではないが、嫌な想像が止まらない
願わくば山本では無い方で頼む…
なんて思ってしまうあたり俺は最低だなと感じる
ま、この性格を変えられる気はしないし変えるつもりもないんだけどね
取り敢えずあんなのが相手だと剛達じゃ太刀打ち出来ない…
今すぐ助けに行きたいけど2人を置いて行く訳には…
って!!裕二が来てる!?
もう1人を連れてきてるって事は剛が2人を逃がしたのか
ナイス判断だよ、本当
「傑、初島の事ちょっとの間、頼むわ」
「分かった。任せろ」
こういう時他の2人だと「はっ!?何でだよ」とか言うんだけど傑だと話が早いんだよな
この時俺は2周目になってから初めて全力を出した
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