第32話

「お前…正気か?」


さっきまで怒り狂っていた剛が冷静に引いている


「至って正気だよ」


「なら普通に狂ってんだな…」


「中級すら飛び越えて、上級…??」


まぁ確かに皆の言いたい事は分かる

危険なのも分かる、でもこれしか方法がない


「1つ忘れてない?なんで俺のレベルが上がってると思う?」


笑顔で言うと皆がギョッとする


「まさか…お前」


「そう、そのまさか」


「クッソ!!そういう事か、だからお前はあんな余裕ぶっこいて…でもそれならもっと早く言ったら良かったんじゃないか?」


まぁ、そうだ

ここまで隠す必要は無かった、けど


「あくまで現時点での話。俺は強いよ、皆が思ってる何倍もね。そんな俺が皆を連れて上級ダンジョンでパワーレベリングしたとする…それで皆は強くなったって誇れる?数値だけ強くなって、ちゃんと戦える?俺がいなくても戦える?」


そう、別にここまで引っ張る必要は無かったかもしれない

でも皆が俺抜きでちゃんと戦って、成長して、進んだっていう経験をして欲しかった

順番は逆でも良かったけど、自分達は弱いんだって事をちゃんと知って欲しかった


俺の言葉に皆黙ってしまった


「でも皆は工夫して戦って、考えて戦って。少しだけどちゃんと強くなったよ。だからそろそろいいかなって…はい」


3人にスクロールを手渡す


「これは…傑が使ったやつ」


「待て待て待て待て!!これめっちゃ高いやつって言ってなかったか!?なんでこんなポンポン出てくる」


「なに、これ?」


これまた三者三様の反応だ


「その通り、それは傑が使ったのと同じスクロールだ。ただし!中身は全部違う、それに滅茶苦茶高いのも否定しない。あー、入手経路は聞かないでくれよ?だから…」


真剣な表情をする


「絶対に強くなれ」


3人はそれぞれスクロールを使用した


剛に渡したのは

「初級無属性魔法ーシールド」

どんな攻撃も1度だけ防ぐ事が出来るシールドを発生させる魔法。但し、自分の身体の正面でしか発動出来ず、移動したり向きを変えるとシールドは消える


初島に渡したのは

「初級無属性魔法ーキャノン」

魔力の塊を放つ。他の初級属性魔法と比べて攻撃力が高い


祐二に渡したのは

「中級支援魔法ースピード」

発動中はチーム全員の速の数値が1.5倍に上昇する。


無属性魔法は独学で覚える事が出来ないと言われている

だから無属性魔法のスクロールはスクロールの中でもかなり貴重だ


タンクの機会が1番多い剛にシールド

攻撃手段がない初島にキャノン

魔法士の祐二に攻撃以外の支援方法として、支援魔法


魔法適正が低い俺ではあまり使えないスクロールたち、今考えうる中ではベストな選択をしたと思う


「はっ、やべぇなこれ」


「す、すごい」


「ゲームっぽいな!やべぇ!」


これまた三者三様の反応だ


「どんどん使ってくれよ。素質さえあれば中級、上級と成長するから」


とは言っても

さぁ、これから上級ダンジョンへ行こう!!とはならない


いくらゲームのような世界でもゲームではない

回復薬もなければ(現状)回復魔法はない

怪我をすれば傷付くし死んだらおしまいなんだ…


誰よりもその事を知ってる俺がちゃんとしないとな


それから3日間は覚えた魔法の動作確認と連携の確認、それから上級ダンジョンでの動き方の確認をミッチリやった


そろそろ…いいか?


「明後日の夜、上級ダンジョンに行こう」


「なんで夜なんだ?」


あれ?とでも言わんばかりに祐二が聞いてくる


「……考えてみろ、昼間に堂々と入れないだろ」


ルールとして明確に定められている訳ではない

だが昼間はダンジョンの入り口には門番がいる

それは俺達、転移者が無謀に挑んで死んでしまうのを防ぐ為だろう


じゃあ何故夜もダンジョンの入り口が開いたままなのか?

どういう意図なのかは流石に分からないけど、俺達のような者のためなのか?

はたまた夜中にわざわざ上の級のダンジョンに挑むような馬鹿は死んでもいいって事なのか?

どちらにせよ有り難い



昨日は1日休みとした

夜に動く為には昼間寝ないといけないからな

そこの調整をしてきてくれているはず…


「ふぁ〜あ、なんかあれだな肝試し感ある」


「確かに、ちょっとワクワクする」


「ちょっと2人とも真面目にしてよ」


「こいつらはなんでも楽しめちゃう奴らだから言うだけ無駄だよ」


そうして集合したが案の定というかなんというか…傑は眠そうにしていた


「こっからは気を引き締めていこう。後は昨日まで練習した通りやれば大丈夫」


スクロールも渡したし、連携の確認も行った

だがそれはあくまで想定外の事態が起きた場合のみ

なんと言おうとこれはパワーレベリングなのだから


打ち合わせ通り俺が単独で先行し、3人には後ろで固まってもらう

経験値共有出来る範囲内ギリギリまで離れて…


陣形は剛を先頭にし、後ろに2人

万が一の場合は剛のシールドで防ぎ、後ろの2人の魔法で足止めする


ある程度進んだ所でゴリアナソルジャーが現れた

今回は俺のレベル上げが目的ではないから真っ向からぶつかる


ゴリアナソルジャーの6本腕による波状攻撃、避けるのは簡単なんだけど…っと

しっかりタイミングを図り攻撃を弾き飛ばす、ゴリアナは体勢を崩す


「今だやれ!」


「我が魔力よ、魔弾となり、敵を撃ち倒せ、キャノン!!」


初島から放たれた魔弾は俺に向かって飛んでくる

当たる直前で横に飛び、魔弾はゴリアナソルジャーへと直撃する


初島が1番レベルが低いからダメージ判定取らせる為の作戦だったんだけど、ダメージが入ってるか分かんないなら意味が無いか…?


「まぁ、いっか!トドメ!」

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