第26話

「傑ぅぅぅぅ!!」


剛の叫び声が聞こえる

情けねぇ…あれだけ言っておきながら時間調整ミスって、心配かけて…


これ以上寝てたら剛がこっちに来ちまう

そんなだせぇ真似だけは…


でも魔力がなくなったせいか体に力が入らねぇ

立ち上がるのもきちぃ…

クッソ…幸いなのはさっきの一撃を額で受けられた事くらいか?

あれをモロに食らってたらマジで死んでたかもしれねぇ…


今の俺に出来る事って…

1つしか思いつかなかった


すまんな、和泉。

忠告無駄にしちまった

それでも俺は…この体がどうなろうと…

たとえ一生動けなくなっても後悔はしない


2つ目の桜を口に入れ、噛み砕く

身体中の痛みがスーっと引いていく

力が湧き上がる、さっきと同じくらいに

なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ?


身体に力は?

―入る


怪我は?

―口の中が切れただけだ


やれるか?

―やるんだよ


俺が立ち上がるとクラスメイト達が悲鳴をあげる


「シャハハハ!よく立った!!だがそんなボロボロで何が出来る?」


「黙れ」


もう油断も手加減もしない

お前が死んでも構わない


再び先程の構えをとる

右手で木刀を逆向きに持つ


地面を蹴り飛ばして跳ぶ

出来るだけ低空飛行で飛距離を長く

そして…

通り際に右手に持った木刀を当てるっ!!


俺の最速の動きから繰り出される斬撃


「秘技・八艘飛び」


「一」


「ぐああああぁぁぁぁ!!」


矢島は全く反応出来ずに傑の斬撃を浴びた

斬られた右腕は木刀で斬られたにもかかわらず鋭利な刃物で切られたかのように出血していた

だがその切り口は抉られたようなものであった


「なぁ矢島なんでこの技が艘飛びっていうと思う?二」


三、四、五、六、七…


右腕、左腕、右足、左足、胴、右肩、左肩…


矢島の全身は傑の斬撃によって切り傷だらけになっていた



クッソが!あの咲宮アマ邪魔しやがってー!!

和泉が戻ってきた時には戦いは終わりかけだった

双方血塗れでクラスメイト含む観客達はその凄惨さに目を逸らすものも多かった


3分はとうに過ぎてる…

それにあの様子、十中八九2つ目を使ってるな


敢えて連続使用のデメリットのみを教えたのに意味なかったか


桜を1回目使用後、1時間以内に再度使用すると3分間身体能力が3倍になる

さらに気分が高揚し、傷や痛みに鈍くなる

分かりやすく言うとアドレナリンが異常に出るって感じだ


ただ自分の限界を越えて、痛みにすら気付かず無理矢理体を動かすのだ

そんなのタダで済むわけがない

なるべく使って欲しくなかったけど、矢島は腐っていても強かった

2つ目の使用は避けようが無かったのかもしれない…


「七…」


傑が数字を呟くと共に左肩を切りつけた

嫌な予感がする…


「八…」


俺は攻撃を仕掛けようとした傑の首をトンッ!と叩き気絶させた


うわぁ…危なかった


あのままだと傑は矢島の首を刎ねていた

仲間を人殺しに…しかもクラスメイトを殺させる訳にはいかない


にしてもさっきの傑は凄まじかった

いくら3倍になってるとは言えあのスピード

あまりに速くて、危うく俺も手加減を間違えて傑を殺しちまう所だった

無駄に緊張した…


技自体はスピードを生かした特化技ってだけなんだろうが、3倍の身体能力に慣れてないはずなのにきっちり攻撃を当ててた

多分目が良いんだろうな


剛と祐二と早瀬が近付いてくる


「……」


剛と祐二がジト目で見てくる

なんだよなんだよ


「片山くんは大丈夫なの?」


早瀬は焦った様子で俺の肩を揺さぶりながら聞いてくる

傑の事が心配なのは分かるけどそんなに揺さぶられたら喋れないんだけど…


「ちょ、たんま」


なるべく加減して早瀬を引き離す


「気絶させただけだよ。身体はボロボロだけど死んじゃいないでしょ」


まだジト目を向けてくる奴らがいるが無視だ!無視!


咲宮の処遇は傑に任せようかと思ったけど

その傑が気絶したので一先ず、早瀬に任せることにした


放置していた咲宮の所に行くと少しだがギャラリーがいた

3人にドン引きされたのは未だに納得いかない


この時の俺は死人が出ずに戦いが終わった事で油断していたのだろう

いつの間にかいなくなっていた矢島に気付いていなかった



――3日後



傑が目を覚ましたという事で病院へとやってきた

この世界には大した医療設備がある訳ではないが病院という仕組みと建物は存在した、やはりこの辺りも先代の転移者達の功績なのだろう


コンコン


「どうぞ〜」


病室のドアをノックしたら傑の返事が聞こえた

どうやらもう起きてるようだ


「今日もよい塩加減で…うすしおサマー」


「3日間眠り続けて、最初の一言がそれでいいのか…」


気絶させる時手加減なんてするんじゃなかったと、ほんの少しだけ後悔した


「3日間て、マジ?」


「マジマジ、自分の足見てみろ」


「やっばぁ、足吊られてるじゃん」


笑いながら言うことじゃないと思うけど


「つうか、うすしお久々聞いたな」


「ホントそれな、こっち来てから初じゃね?」


「息付く暇なかったもんな…」


息付く暇と言っていいのか分かんないけど取り敢えず大きな事件を乗り越えたのは確かだ


「いや、そもそも和泉がいなかったせいだろ」


「それも、そうか…」


なんて他愛のない話を続けててもいいんだけど1つケリをつけないといけない事がある


「入れ」


呼ぶと咲宮が怯えながら入ってきた


「戦ってる途中、爆発したろ?あれこいつの魔法なんだ…祐二がいなかったらどうなってたか」


話を聞けば矢島に指示されたとの事

逆らえなかったといえばそうなのだろうが、自分がチームに戻る為に傑を犠牲にしようとしたんだ

俺はこいつが許せない…

でもそれを決めるのはあくまで傑だ


「……」


傑はうーんと唸りながら顎に手を当て悩む仕草をする


「おーい!」「傑生きてるかー?」


遅れて剛と祐二がやってきた

傑は2人の顔を見てハッとした表情になる


「そいやぁ戦いはどうなった!?矢島は?途中からの記憶がないんだ」


俺たち3人は視線を落とし項垂れる


「矢島はどこに行ったか分かんねぇんだ…」

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