第18話

金を持っているだけはあってゲースニックの家はデカかった

簡単にいうと巨大な館

そこには多くの使用人と私兵部隊がいた

使用人は全員女性、つまりはそういう事だ


暗殺を決行する今日は金曜日の21時

ゲースニックは金曜日の夜は必ず使用人の誰かを部屋に呼ぶ

普段は部屋にも私兵部隊の数人が護衛として守っているがこの時だけは護衛もいない

暗殺するにはこれ以上ないタイミングだ


なんの趣味なのかゲースニックの私兵部隊は全員仮面を付けている

潜入するにはもってこいって訳だ


1人でいる私兵部隊を手早く気絶させ、装備と仮面を奪う

幸い体型が近い奴で良かった


上手く誘導してゲースニックの部屋の前の護衛を代わってもらった

部屋の前の護衛は2人なのでもう1人の奴には眠ってもらった


1時間程したらゲースニックが上半身裸のまま部屋から出てきた

欲望のまま生きているからだろうが、見事にだらしない体である


「ゲースニック様」


「なんだ…」


ゲースニックを呼ぶと不機嫌そうにこちらを向く

あれだけ嫌われているくせに警戒心が薄すぎる


素早く回り込み首に薬を打ち込む

この薬は「裏ギルド」に用意してもらった睡眠薬で護衛を眠らせるのにもこれを使った


あとは自殺に見せかける為に階段からつき落とせば依頼完了だ

万が一生き残ってもらったら困るのでもう1つの薬を飲ませる

この薬は市販で売っているよくある体調を良くする薬

…なのだが先程の睡眠薬と併用すると、あら不思議

人が死んでしまうのです


心臓の鼓動と息を確認、間違いなく死んでいる

第1段階は終了

さて、問題はここからだ

ゲースニックの部屋は2階にあるので階段から落とせばいいだけなのだが、この巨体の死体を抱えて誰にも見付からず階段まで向かわないといけない

そして自殺に見せる為には本当に階段から落とさないといけない


ここで気配察知スキルが活きてくる

まだ俺の気配察知では広域をカバーする事は出来ないので慎重に進んだ

そして何十分もかけて誰にも見付からず階段に到着した

あとはここから落とすだけ

しばらく考えたがいい案が思い浮かばなかったので投げやりにいこうと思う


「うああああぁぁぁぁ!!」


なるべくゲースニックの声に似せて叫んだ後、ゲースニックの死体を横にして階段に転がした

さぁ、後はここから脱出すればいいだけだ

と立ち上がった時、使用人の1人と目が合った


護衛ではなかっただけマシだが見られた以上生かして返す訳にはいかない

俺は口元に指をもっていき、シーのポーズを取る

使用人は驚きながらも首を高速で縦に振る

本当は駄目なんだけど出来れば罪のない人は殺したくない


固まっている使用人の背後へと回る


「ヒッ!!」


思わず声が出そうになる使用人の口に布を突っ込み黙らせる


「喋るな、叫ぶな、泣くな、振り向くな」


既に涙目の使用人だが、必死に首を縦に振る


「あんたは何も見ていない、そうだな?」


先程とは違い大きく1回首を縦に振る


「よーし、いい子だ。もし誰かに言ったらあんたの命はないと思え」


やはり最後は高速の首振りをする


もうあれなんだよ…やってる事が完全に悪者のそれ

まぁいいんだけどさ、俺は別に正義の味方になりたい訳じゃないから



――その頃のクラスメイト達



あと1ヶ月で寮を追い出される

討伐者を目指す者は死に物狂いで初級ダンジョンに挑み

討伐者を諦めた者は街で仕事を探す


まるで就活中の大学生のようなピリピリムードが漂っていた


それもそのはず、現時点で討伐者として内定しているのは僅か2チーム

討伐者を諦め普通の仕事を見付けられたのも数名だけ


討伐者として内定しているチームの内の1つは勿論こいつら…


「お前、もういいや。使えねぇし、あっちの方も飽きてきたし…そろそろ違う奴でも」


とっくに内定して順風満帆のはずが、こちらはこちらでピリピリしていた

もうすぐ進路を決めないといけない時期にわざと皆がいる場所での咲宮への追放宣言


「はぇ?…待って、そんな…嘘、よね?嘘でしょ、なんで今…」


「はぁ…理由を言わねぇと分かんねぇのか?だからお前は使えねぇんだよ…」


初級ダンジョンを早々にクリアした矢島達だったが、それからずっと中級に挑み続けて未だにクリア出来ていない

それどころかクリア出来る目処すら立っていない


レベルを上げては挑む

なのに変わらない戦闘内容、変わらない負け方そんな日々が続けば矢島に耐えられるはずがなかった

寧ろ短気な矢島にしてはよく持った方だとも言える


本来そこまで中級ダンジョンのクリアにこだわる必要はないのだが、そこは矢島のプライドが許さなかった

俺はお前らとは違うという証が欲しかったのだ


中級ダンジョンからは敵の種類は勿論、攻撃力、手数、耐久力

全てが段違いとなる

矢島達が苦戦したのはゴリアナソルジャーと呼ばれる害獣

ゴリアナとついているが同じなのは顔だけで、そもそも二足歩行になっている

さらには手が6本、普通に走ってくるしそれがかなり速い

6本の手にはそれぞれ別の武器を持っている


矢島達も1体相手なら何とか倒せていたが2体以上となると全く対応出来なかった


一体ずつ倒すのがセオリーだが、前衛が持ちこたえてる間に咲宮が倒しきれず前衛が崩れてしまう


その責任を全て咲宮のせいにしたのだ

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