第16話

多少ストレスが解消されてもダンジョン攻略が上手くいくようにはならない溜まっていくストレスに比例して田中と山田に対する暴力が激しくなるだけであった


クラスメイト達は、田中と山田の日に日に増える痣や傷を見て思う所はあるものの矢島に文句を言ったら自分が標的にされるかもしれない、と見て見ぬふりをするしかなかった


タイミングが悪い事にこんな状況を見たら黙ってはいられないであろう男達は矢島を追放してからほとんど外にでていなかった


和泉ボコ殴り事件の後、約束通り祐二は剛と傑を説得した

普通の奴なら笑って流すであろう内容だったが、親友の真剣な言葉を信じられない2人ではなかった


和泉は、説得に成功した時にやっておいて欲しい事として毎日の瞑想12時間と素振りを伝えていた


何故そんな事をするのかという理由も伝えていないのに、やるわけないだろうという和泉の予想を3人は良い意味で裏切った


カースト上位で運動神経が良い3人は、討伐者としての活躍を期待されていたが、引きこもり(瞑想12時間)が始まってからは「期待はずれ」だの「ビビった腰抜け」だの散々言われた

それでもやめずに瞑想を続けたのは和泉への信頼故にだろう


矢島の件はそんな3人の耳にも伝わるほど広まっていた


「矢島…許せねぇ」


まさに主人公と言った風に正義の心で埋め尽くされている剛は怒っていた


「矢島か、まさかこんな事になるとは…」


普段おちゃらけている祐二でさえも、自分たちにも責任があると感じていた


傑は、ただ静かに黙っていた



――一方その頃…



和泉はそんな問題が起きているなど露知らず、1週間ほどかけて目的地へと到着した


王都から少し離れた街のどこにでもある様な服屋

その店内に入り、ある人物を探す


「いらっしゃいませ!どのよう…」


近寄ってくる店員を無視して店の奥へと向かう


…いた


全身黒のスーツを着ている店員に話しかける


「お客様、お買い求めの品は?」


「黒のスーツ上下、特注で。期日は96(クロ)で」


「…付いてこい」


店員に連れられ店の外へと出ると隠し通路を通り地下室へと入る

入る時、黒服に武器類は全て回収される


俺がやってきたのは、正式名称はなく関係者が皆「裏ギルド」と呼んでいる非合法ギルド

地球で言うとヤクザが1番近いんだろうか?


決められた店にいる案内屋を見つけ「合言葉」を告げることで「裏ギルド」へと案内してもらえる

理屈か不明だが「裏ギルド」へと続く道は何十、何百とあり、日によって「裏ギルド」に到着出来る道が決まっている

仮にその日使えない道に入ってしまうと二度とそこから出られなくなる可能性があるらしい

だから案内屋に案内してもらう以外「裏ギルド」に行く方法はない


「裏ギルド」には1周目で上級鑑定魔法のスクロールを買うためにお金を集める際世話になった


ホームへ着くと「裏ギルド」のボスがいた

ボイスチェンジャーで声を変え、決して姿は現さない

1周目からこのスタイルなので、性別から何から全て分からない

誰も本当の名前も顔も知らず「ボス」と呼ばれているから「ボス」と呼んでいる


「見ない顔だな、誰の紹介だ」


「言うわけないだろ、馬鹿か」


周りにいた黒服が一斉に武器を構える

なんて物騒な所だ


「いい」


「ボス」が右手をあげ制止すると全員元に戻る


「正式な手順で来た以上こいつは客だ。で、要件は?」


「「呪いの腕輪」が欲しい、最低500だ多ければ多いほどいい。あとはスクロールが何個か」


「そうなると魔大陸からの密輸になる。高いがお前に払えるのか?」


明らかに挑発するような声色


「金はねぇ、だから依頼もこなす。大体なんでもやる」


「ハッ!おもしれぇな、それならこの依頼をこなせたら取引は成立だ」


黒服が紙を渡してくる


紙には暗殺依頼と書いてあり名前と顔写真が載っている

こいつは…俺でも知ってるくらいのお偉いさんじゃねぇか

なかなかヤバい依頼を引いたかもしれない


「期日は1ヶ月、少しでも超えたら死ね。勿論逃げても同じ、至る所に「目」はあるんでな」


いちいち威圧してくる物言いにこの態度

俺が若いからって舐めてんのか?


「ちょっと待てよ、この依頼でさっきの報酬じゃ足らねぇだろ。スクロール追加だ」


お偉いさんを殺すのなんてリスクしかないのに足元見られてたまるか


「あ?新参者が舐めてんのか?」


怒声と共に黒服が武器を構える

だがこの程度の脅しには屈さない


「は?その新参者にすら正当な報酬が払えないのはお前らの方だろうが「裏ギルド」だなんて大層な名前掲げてる割には大した事ねぇな」


「お前っ!!ボスが優しくしてやったのにその態度、舐めてんのかぁ!!」


先に黒服の1人が痺れを切らした

手にはナイフを持っており

切りかかってくる


それをギリギリでかわし手首を蹴り上げる

蹴りの衝撃で黒服はナイフを手放す

手放されたナイフは音を立てて地面に落ちる

すかさずそれを拾い戦闘態勢へと移る


「このクソガキゃあ!!」


他の黒服達も攻撃態勢に移る


「やめろ!!」


ボスの一声により黒服達の動きが止まる


「でもボスっ!!このままじゃ…」


「これ以上俺の顔に泥を塗るつもりか?」


たった二声で黒服達を完全に黙らせた

ボスにはそれだけのカリスマ性があるのだろう


「いいぜ、俺はお前が気に入った!報酬の追加分はこっちで用意してやる、それでも足りねぇってんならその時話そうぜ!」


なんとかぼったくられずに済んだようだ

ホッとした俺は渡された依頼書を確認する

ヤラレタ…


よく読んだら殺し方にも条件があった


(自殺に見えるように暗殺を、可能なら階段から落ちて頭を打つなどが望ましい)


ただでさえ用心の暗殺なんて難易度が高いのに自殺に見せかけろだと?


「あれだけの啖呵切ったんだ!出来ねぇなんて言わねぇよな?」


こいつ…本当に食えない奴だ

でも今の俺にはやるって選択肢しかないんだ

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