十七、日常
103 私の宝物
大雪が降る寒い天気、白い息が出る外を走っていた。
私に着替える暇などない……。
今すぐ朝陽くんに会いたかったから、私は病衣を着たままお母さんのビルに向かっていた。そこには朝陽くんがいる。目が覚める前までずっとずっと悪い夢を見ていたから……、今すぐ会いたい。寂しかったよ……、朝陽くんがいなくなってずっと寂しかった。でも、今会いにいくからそこで待ってて朝陽くん。
ガチャ……。
ここは一度しか来たことがないお母さんの作業室。
仕事で忙しい時にはここで寝ていたから、お母さんの匂いがする……。
そして、奥の部屋から朝陽くんの匂いも……。
「朝陽くん……?」
「うっ……。ま、眩しい……」
ようやく見つけた。朝陽くん、ここにいたんだ……。
「こ、この声は……? 雪乃……?」
「そうだよ! 会いに来たから……」
「へえ……、夢で雪乃と会えるなんて……いいな。夢も」
「違う! 私だよ! これは現実だよ? 朝陽くん!」
電気をつけたこの部屋にはボロボロになってしまった朝陽くんがいた。
もしかして、私がいなかった間に二人であんなことをやっていたのかな……? 朝陽くんの体についているお母さんのリップ、この色はお母さんしか使わない高級ブランドの物だったから……。素直にこの状況を受け入れるのができなかった。
そして……、結構長い間……ここに閉じ込められたらしい。
眩しいって言ったのは……、ずっと電気をつけなかったってことだよね……? お母さんはそんなことがあったのに、また同じことを繰り返すなんて……私のお母さんだけど、ひどいなと思っていた。でも———。
「雪乃だぁ……」
「そう、私だよ……? 朝陽くん……」
「会いたかった……。ずっと、会いたかった……。体は大丈夫……?」
気を取り戻して、涙を流す朝陽。
「うん。大丈夫、平気だよ。だから、朝陽くんに会いに来たじゃん」
「うん……」
知りたかった。
お父さんの写真を見て、ずっと涙を流すしかなかったお母さんの気持ちを……。だから、病室で目が覚めた時、私は委員長に頼んだのだ。お母さんに関したことならなんでもいいから、調べてほしいって……。まさか、あんなことまでできるとは思わなかったよ……。さすが、委員長……。
でもね……。
私はお父さんがいなくなってからずっと悲しくて……生きる意味を失ってしまったけど、もう大丈夫。今は朝陽くんがいるから、そんなこともう忘れちゃったよ。過去は過去……、私が生きていく世界は朝陽くんがいるこの世界だからね……?
真実はとても簡単だった。
信じられなかったけど、それが真実なら信じるしかなかった。
「雪乃……、服はどうした?」
「早く会いたくて、すぐ来ちゃったよ……。着替えの服は持ってない」
「そっか……。俺ここに監禁されてた……。お見舞い、行かなくてごめん」
「ううん……。大丈夫、朝陽くんの服は箪笥の中にあるから……帰ろう。私たちの居場所に……」
「うん」
……
そして私たちは日常に戻ってきた。
今年のクリスマスはもう過ぎちゃったけど、朝陽くんと一緒にいるのが好きだったからそんなこと気にしなかった。これからもずっと一緒にいられるから……。私たちは来年も再来年も……、私たちの思い出をたくさん作る予定だから。まだ来てない毎日が楽しくなるだけだった。
過去は過去のまま——。
「そ、そういえば……。莉子さんのことはどうすれば……?」
「お母さんのこと? ああ、気にしなくてもいいよ。お母さんはもう朝陽くんに手を出さない……。私がちゃんと言っておいたからね? 心配しないで」
「そっか。うん!」
道の真ん中でキスをする二人、もう何も心配しなくてもいいよね?
私たちはこのまま……ずっと一緒にいられるから……。
「そろそろ、年末だよね? 朝陽くんはどうする? 年末……」
「そうだね。特に予定もないし、雪乃と一緒に過ごしたい……。いつものように」
「好きっ!」
今の朝陽くんには私しかいない。
朝陽くんに告白した小林も、嫉妬して友達を捨てた清水も、中学生の頃からずっと朝陽くんをいじめた雨宮も……。全部、私が排除したよ。偉いよね……? これが私の「愛」。そのすべては私が朝陽くんのためにやってきたこと……。だから、今度は朝陽くんが私のために何かをやってくれないと……。それはとても簡単で、朝陽くんには難しくないはずだよ。私がずっと欲しかった物をくれればいい。
私の朝陽くん———。
「遅刻しちゃうよ……? 早く行こう……」
「うん」
実は雨宮も、小林も、私の邪魔をしたすべての人を殺したかった……。
でも、そうしたら朝陽くんのそばにいられなくなるから。それくらいは私も知っていた。だから、全部許してあげたよ……。みんな、私の知らないところで自由に生きてもいいよ。ずっと委員長にそれを頼むのも悪いし、私の邪魔をしないなら何をしても構わない……。今はね。
そして、お母さん……。
娘の彼氏に手を出したお母さんだけは絶対許したくなかったけど、私は優しいからね。それにいろいろ、私に大事なことを教えてくれたから……、殺すのはやめた。この後、私と朝陽くんの間で産まれる赤ちゃんにはお婆ちゃんが必要だからね? だから、お母さんには何もしなかった。
ずっと、その地獄で生きていけばいい。
「…………」
私は朝陽くんと幸せな人生を送るから……。
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