86 そこにいるのは…③

 また……、倒れたような気がする。

 体調も悪くないのに、どうして倒れたんだろう……? その疑問を抱いて、俺はどんどん意識を取り戻していた。そして体のあちこちが何かに噛まれたように……、ピリピリする。わけ分からないこの状況に、少しずつ目を開ける俺だった。


「…………」


 ちょっと……寒いかも。

 先まで温かいところにいたはず、どうして寒さを感じるようになったんだろう。

 それに、なぜか重さも感じられる……。


「ううん……♡」

「…………」


 そして目を開けたところには黒い何かがあって、多分……これは髪の毛……。

 どうして目の前に髪の毛が……?

 ぼやけて見えるその姿、意識を取り戻すには少し時間がかかりそうだった。


「あら……、起きたの?」


 すぐ前から聞こえる莉子さんの声。

 眩暈がして、つい莉子さんの肩を掴んでしまう。でも、そこで……俺は違和感を感じた。確かに、莉子さんはパジャマを着ていたはずなのに、どうして俺は彼女の肌を触ってるんだろう……? 部屋が薄暗いからよく見えないけど、パジャマ……着てないような気がする。なんか半裸の状態に見えるのは気のせいか、俺の見間違い?


「は、はい……」

「眩暈がするよね……? もうちょっと我慢して……、宮下くんには薬効が強かったかも……」

「薬効…ですか?」

「うん」


 そう言ってから俺を抱きしめる莉子さん、その柔らかい感触と体の温もりがちゃんと伝わっていた。

 まるで、裸でハグをするような……。そんな感じだ。


「若いのはいいよね……。硬くて……、すごく気持ちよかったよ? 宮下くん」

「は、はい……? なんの話ですか?」

「こういうこと……」

「うっ……。ちょ、ちょっと待ってください。痛いです…………」


 一体、この部屋で何が起こってるんだ……?

 起きたばかりだから、両手に力が入らない……。それに莉子さんが俺の体を、あちこち触ってるような……気がする。一体どういうことだ。びっくりして莉子さんの肩を掴むと、さりげなく俺の唇に自分の唇を重ねる莉子さんだった。


 手がすごく震えていて、俺の力では今の莉子さんに勝てない。


「あーん♡」


 俺はもしかして胡桃沢さんのお母さんと今、キスをしてるのか……?

 これは悪夢……? 悪夢だろ……? そんなわけないのに、俺はこの生々しい感触を否定するのができなかった。温かい莉子さんの中、舌の動きと……体の温もりにとろけてしまう。よくない、こういうのはよくなって知ってるのに……莉子さんから離れない。俺に逃げる力はなかった。


「はあ……♡」

「ど、どうして……こんなことを、僕は莉子さんの娘の彼氏ですよ……」

「今は病院にいるからね? ずっと、宮下くんとこういうのがやりたかったよ。雪乃ちゃんだけが独り占めするのはずるいと思わないの? 宮下くんがお父さんとそっくりだから好きになったくせにね……。そんな理由なら、私にも宮下くんとエッチなことをする権利はあると思うけど……」


 何を言ってるのか分からない……。

 本当に分からない……。莉子さんが言ってるのは俺が胡桃沢さんのお父さんと似てるから、こんなことをしてもいいってことか? それとこれと……なんの関係があるんだろう。そして俺の唇についている涎を拭く莉子さんが、今度は俺の首筋を噛む。もう少し体に力があったら、抗えるはずだったのに……。俺は何もできないまま莉子さんに噛まれていた。


 耳元から、喘ぐ莉子さんの声も聞こえる。


「これはだよ? 私は二年以上我慢したから、もう我慢できない。雪乃ちゃんがいない今が、チャンスだから……。いっぱいやっちゃったよ? 宮下くんと……、やってはいけないことを…ね♡」

「…………」


 笑みを浮かべる莉子さん、俺と彼女はいつの間にか全裸になっていた。

 俺が気絶している間に……、何をされたのかは言わなくても分かりそうだ。怖すぎて……、どうしたらいいのか、頭が全然回らない。


「写真もいっぱい撮っちゃったよ♡」

「しゃ……、写真も?」

「うん♡! だって、悲しくて寂しかったから……ずっと会いたかったから……。私が作った香水をつけた……あなたを」

「僕はあの人じゃないんです! し、しっかりしてください!」

「知ってるよ。知ってるけど、雪乃ちゃんだけが幸せになるのはずるいから……。お母さんだって、欲求不満だったのに……。雪乃ちゃんはずっと宮下くんの家でやりまくって……、そのためにお母さんの睡眠剤も盗んだよ? 悪い子だと思わないの?」

「…………」

「今日はどこにも行かせないから、ここで私と気持ちいいことをいっぱいしようね? 宮下くん……」


 あれ……?

 莉子さんに気を取られて全然気づいてなかったけど……、俺の足にはいつの間にか手錠がかけられていた。本当に、ここで……。


「寂しかった……。いなくなって、ずっと寂しくて…寂しくて……」

「…………」


 あ……、ダメだ。

 ここから逃げるのは無理だ……。


「抱きしめてよ……。あの時のように、私のことを好きって、耳元で囁いて……」

「…………」

「宮下くん……、寂しいよ」


 そのままベッドに倒れて……、俺は莉子さんと二人っきりのいけないことをやってしまった。


「ねえ、好きって言って……」

「好きです……」

「名前も呼んで……」

「好きです……。莉子さん……」

「うん……。嬉しい、温かい♡。本当に……気持ちいい……」


 俺は彼女のお母さんと……、今…………。


「…………」

「はあっ♡」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る