35 逆転②
胡桃沢さんがお風呂から出る前に、着替えと布団を用意しておいた。
てか、あの晶すらうちに泊まったことないのに……、付き合ったばかりの胡桃沢さんがうちに泊まるなんて…正直まだ信じられないことだった。それにあの電話のせいで、また余計なことを考えてしまう。
「…………」
いけない、しっかりしろ朝陽!!
「朝陽くん〜♡」
いきなり顔を出して、ビクッとした。
洗面所で俺を呼ぶ胡桃沢さん、ちらっと見える彼女の肩から俺は目を逸らしてしまう。まさか、バスタオルを巻いてる姿をうちで見られるとは思わなかった。少し濡れている長い髪の毛と気持ちよさそうなその顔……。いくら恋人だとしてもあんなことは彼氏に刺激的だから、自覚してほしいのに……。
胡桃沢さんの頭の中はよく分からない。
「は、はい!」
「これ、朝陽くんのパジャマなの?」
「あ……、はい。一応洗濯しておいたのはそれだけで、ちょっと大きいかもしれませんけど……。気に入らなかったら、他の服で……」
「ううん! 私は朝陽くんのがいい」
「はい……」
一応……洗い物とかいろいろ終わらせたから、今度は俺がお風呂に入る番だった。
入浴剤のいい匂い……。
体を洗ってからゆっくり風呂の中で時間を過ごす。静かでいいな……。こうやって一人になるのが久しぶりだと思うほど、最近は胡桃沢さんとずっとくっついていた。悪くはないけど、体の変な変化に気づいてから……今の距離感が危ないと思ってしまう。俺も……一応男だからな。
「…………っ」
なんで、変なことを思い出すんだよ。
学校から一緒に帰ってきて、一緒に買い物をして、一緒に勉強をして……そして夕飯まで一緒に食べる。どう見ても普通のカップルじゃないから……、今日絶対変なことが起こらないように注意しておこう……。てか、俺が注意しても問題は胡桃沢さんだから、どうなるのかは神様に任せるしかなかった。
何も起こらないように……祈るだけ。
「あっ! 朝陽くんだぁ———!」
「うっ……!」
お風呂から出ると、すぐ俺に抱きつく胡桃沢さんだった……。
磁石……?
「私と同じ匂いがする! 私この匂いすっごく好きだからね……! この匂いは朝陽くんって気がする!」
「そうですか? あの……、一つ聞いていいですか?」
「うん! 何?」
「ズボンはどこに……?」
「え……、それはね! 私が着るには腰回りとか丈の長さとかいろいろダメだから着るのやめたよ」
萌え袖の胡桃沢さん、今は下着の上にパジャマの上着だけか……?
確かに……、大きいパジャマだったから胡桃沢さんにはサイズが合わないかもしれない。とはいえ、ワンピースでもあるまいし。パジャマの上着を着ただけでそうなってしまうのか……。どれだけ小さいんだ……、胡桃沢さんは。
そしてめっちゃ可愛い……。
「朝陽くん……?」
「あっ、はい」
「どうしたの? もしかして、俺のパジャマ姿にドキッとしたわけ?」
「…………ち、違います。それより……下には……」
「うん? なんも履いてないけど」
「…………胡桃沢さん。えっと……、そういうのは堂々と話すことじゃないと思います。次はちゃんと注意してください」
「どうして?」
首を傾げる胡桃沢さん、もしかして俺の言ってることが分からないのか。
あるいは純粋な顔をして、俺をからかうためだったり……。
「私に、何かしたい……?」
「…………何もしません! もう時間遅いから……、早く寝ましょう」
「あれ? 朝陽くんは部屋に入らないの?」
「えっ? 俺は居間で寝るつもりですけど……?」
「どうして?」
「どうしてって……、まだ高校生だから胡桃沢さんと一緒に寝ることできるわけないですよね?」
「私は構わないけど……?」
居間に寝床を作ったから俺はそこで寝るつもりだったけど、そこに横たわるのは俺ではなく胡桃沢さんだった。
「私、ここがいい。部屋いらない」
ふと、胡桃沢さんのお母さんと交わした会話を思い出す。
胡桃沢さんは夜遅い時間までお母さんが帰ってくるのを待っていた……。もしかして、一人で寝るのが怖いとかそういうことかな。よく分からないけど、胡桃沢さんはずっと俺から離れようとしなかった。
「じゃあ……、寝かせてあげます。行きましょう」
「そばで?」
「はい」
「じゃあ……、朝までずっとそばにいてくれるって約束して」
「はいはい」
まあ、寝かせた後は部屋を出る選択肢もあるし、今は胡桃沢さんの言う通りにするしかないな……。
それに明日も学校だから、早く寝ておいた方が良さそうだ。
「ねえ……、朝陽くん」
「はい?」
「私は朝陽くんが私の彼氏になってすごく嬉しいけど……、朝陽くんも私が彼女で嬉しいのかな?」
「はい……。すごく嬉しいです」
「ひひっ、私はね……」
そばから俺をギュッと抱きしめる胡桃沢さん。
「ずっと……朝陽くんのことを独り占めしたかったよ……」
「そ、そうですか?」
「誰にも邪魔されない……。私の幸せな時間……」
ベッドに座っている二人、胡桃沢さんはそばでうとうとしていた。
やはり疲れたよな……。
俺はその寝顔を見つめて笑みを浮かべる。本当に可愛い人だ……。
夜の十一時半。
彼女をベッドに寝かせた後、こっそり頭を撫でてあげた。
「そろそろ……、俺も寝よっか」
何もなくて……、本当によかった。
きっと彼女に「一緒に寝たい!」とか……言われると思っていたからな。
「おやすみなさい。胡桃沢さん……」
ガチャ……。
静かに部屋の扉を閉じる朝陽、そしてこっそり目を開ける雪乃。
「…………嘘つき」
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