31 彼女②
お昼はいつも晶と二人で食べていたのに……、今日は胡桃沢さんと人けのないところで食べることになった。それも当然か、今は彼女だから一緒にお昼を食べるのが普通だよな。それでも胡桃沢さんと一緒にお昼を食べるなんて……恥ずかしい、そばで歩くだけなのに心臓がドキドキしていた。
「私、今日お弁当作ったから……! あ、朝陽くんのために……」
「えっ……! ほ、本当ですか?」
「うん!! だから、今日一緒に食べたかったよ!」
「ありがとうございます……」
涼しい風が吹いてくる屋上で二人はベンチに座る。
「胡桃沢さん……その指」
お弁当の蓋を開ける胡桃沢さん、その人差し指に絆創膏が貼られていた。
もしかして、包丁を使ったのか……?
胡桃沢さんって包丁使うの苦手だったじゃなかったのか、それでもお弁当を作るために我慢したってわけ……? 言えなかったけど、すごく嬉しかった。
「あっ……、へへっ。わ…私、料理苦手だから……。でも、最近お母さんが教えてくれたからね? だから……朝陽くんに美味しいお弁当を作ってあげたくて……」
「…………す、すごく嬉しいです!」
「へへ……、た、食べてみて!」
「は、はい!」
「あーん」
今まで胡桃沢さんに何度も食べさせてもらったけど、今が一番ドキドキした。
俺が胡桃沢さんの彼氏になったからか……、お弁当を食べながら見た胡桃沢さんの笑顔はすごい破壊力を誇る。目を合わせるのができないほど照れていた。
「どー?」
「美味しいです!」
「よかった。朝陽くんのお弁当も食べさせて!」
「は、はい!」
目を閉じて口を開ける胡桃沢さん、そんな彼女に俺が作ったサンドイッチを食べさせてあげた。誰にも邪魔されないこの時間……すごくいい。中学生の頃からずっとこんなことを憧れていたから、こういう些細なことに感動してしまう俺だった。
「胡桃沢さん……! ゆ、指……! それにソースが……」
「あっ……、朝陽くんの指を舐めちゃった……」
「…………ティッシュ、ティッシュ……」
「いらない、じっとして」
「はい……?」
横髪を右耳にかける胡桃沢さんが、指についているソースを舐めてくれた。
彼女の温かい舌の感触が指に伝わる……。
ティッシュで拭いても構わないのに……、こんなこと……すごく恥ずかしい。それに人差し指と中指を舌で舐められるのは生まれてから初めてだった……。一応彼氏なのに、彼女にこんなことをされるなんて……どうしたらいいのか分からなかった。
「あまーい! キレイになったよ……! へへっ」
「…………」
「どうしたの?」
「いいえ……。次は……その……、普通に拭いてくれませんか?」
「もしかして、気持ち悪かった……? でも、私ティッシュ持ってないから……」
「いいえ! あの! 気持ち悪いとかじゃなくて……、むしろ……恥ずかしいんですけど……」
真っ赤になった朝陽の顔に気づく雪乃。
「なになに? 彼女に指を舐められて、興奮したのかな?」
「ち、違います……! どうしてそうなるんですか……!」
「男の子って普通そうじゃないの……? 彼女が前にいるとすぐ興奮したりするじゃん……」
多分、そうかもしれないけど、胡桃沢さんが考えている男のイメージはそうだったのか……。なんか、胡桃沢さんとくっついた時を思い出すと……、ずっとそうだったような気がする。俺も結局……、変態だったのか……。でも、でも……そんなに可愛い人が目の前に、しかも…くっついてるのにそうならない方がむしろおかしくないのか……? 自分が何を言ってるのか分からないけど、精一杯わけ分からない何かに反論していた。
「映画を見る時も……、すっごく可愛かったからね? 朝陽くんの……♡」
「そ、そこまで! ス、ストップ! 胡桃沢さん、ストップ!」
「ええ……、別にいいじゃん。そんなところも含めて朝陽くんだからね……? むしろ、そうなるのが嬉しいっていうか…彼女として気持ちよかったって言うのはちょっと変に聞こえるかな……?」
「うう……、ストップ。胡桃沢さん……!」
「私は朝陽くんのすべてが好きだよ……? へへっ」
「は、はい……」
「食べて食べて、あーん」
微笑む胡桃沢さんがミニトマトを食べさせてくれた。
そしてさりげなく頬をつねる。
「ふふっ♡」
昼休みってこんなに長かったのか……?
胡桃沢さんと過ごした昼休みはすごく幸せだったけど、同時にすごく恥ずかしかった。なんか、胡桃沢さん……恋人になってから前よりもっと大胆になった気がする。どうしてそんな恥ずかしい言葉をさりげなく言い出すのかな……? 俺は考えるだけで顔が熱くなるのに……、胡桃沢さんは恥ずかしがる俺の反応を楽しんでいた。
「今まで……」
「はい?」
「ずっと友達とお昼を食べていたから……全然知らなかったけどね?」
「はい」
「彼氏と一緒にお昼を食べるのはめっちゃ楽しい!! 嬉しい感情が溢れてすごくワクワクしてたよ……!」
片付けたお弁当を隣に置いて、すぐ俺にくっつく胡桃沢さん。
「うわっ……、びっくりした……。俺も胡桃沢さんと一緒にお昼を食べるのは楽しいです」
「また一緒に食べようかな……? 朝陽くん」
「はい!」
「よしよし……」
そして、今度は胡桃沢さんが俺の頭を撫でてくれた。
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