23 多分デート③

 時間はあっという間に過ぎていく。

 午後の5時、大きいペンギンさんを抱きしめている胡桃沢さんと電車に乗った。

 さすが胡桃沢さんだ。一緒にいるだけなのに時間が消えてしまう。あちこちで甘いものを食べたり、服やアクセサリーを見たり……。否定したかったけど、今日俺たちが過ごした時間は本物のデートで…俺もすごく楽しかった。


「なんか……、急にソフトクリームが食べたくなっちゃう」

「えっ……? そうですか? じゃあ、買いに行きます?」

「うん! 食べたい!」


 駅から出た二人はすぐソフトクリームを売る店に向かう。


「…………」

「う———ん! 美味しい!」


 大きいペンギンさんを抱きしめたままソフトクリームを舐める胡桃沢さん。

 てか……、どうして俺が彼女のソフトクリームを持ってるんだろう……?

 そっか、ペンギンさんのせいで手が空いてないんだ。とはいえ、胡桃沢さんにソフトクリームを食べさせるなんてちょっと……いや、これはすごく恥ずかしいことだった。


 舌でソフトクリームを舐める姿がペットみたいな感じでやばすぎる。


「食べないの? 美味しいけど……」

「いいえ。た、食べます。あの……、ペンギン持ちます」

「嫌よ! 私のものだから! 宮下くんは私にソフトクリームを食べさせて!」

「は、はい……」


 なぜか、怒られた……。


「そういえば、宮下くんのソフトクリームはチョコ味だよね?」

「は、はい。チョコ味です」

「食べたい! 一口ちょうだい!」

「えっ? そ、それはちょっと……」

「え———。いいじゃん。私の食べてもいいから、一口ちょうだい!」

「は、はい……」


 お菓子とか、そういうのなら構わないけど……。

 さすがに食べかけのソフトクリームはちょっとやばくない……? 胡桃沢さんって本当にそんなこと気にしないのか、ソフトクリームって……それって間接キスのレベルじゃねえだろ。


 でも、素直に食べさせるしかない俺だった。


「チョコ味! 美味しい!」

「そ、そうですか?」

「私の食べてもいいよ! 私ばかり食べるのもずるいから……」


 今のは他の意味でずるいと思いますけど……、胡桃沢さん。


 ……


「ねえ、宮下くんは私と一緒にいるのは楽しい?」

「えっ?」


 帰り道、胡桃沢さんが小さい声で話した。


「た、楽しかった……?」

「は、はい! すごく楽しかったです! いろいろ……。そして今まで女子とこんな風に遊んだことがないから、ちょっと慌てて……恥ずかしい姿を見せたかもしれません……」

「ううん。いいよ。私もね! 恥ずかしくて言えなかったけど、今日の宮下くん最高にカッコよかったよ……!」

「……っ」


 あ、天使様……。どうして俺にこんな試練を……。

 その笑顔を見るたび……、俺の思考回路が停止するのを感じる。そして馬鹿馬鹿しいと思うけど、俺は好きと言われたあの時を思い出してしまった。女子なんかいてもいなくても……俺とは関係ないことだと、ずっとそう思っていたのに……。胡桃沢さんだけがだんだん特別に見える。


 これは危険だ。


「あ、ありがとうございます……。胡桃沢さんにそう言われて、すごく嬉しいです」

「あのね……。これあげる」

「えっ?」


 先撮ったプリクラ……。


「私はスマホの後ろに貼ったけど……。宮下くんはどうする?」

「はい。そうです……うん?」


 スマホを見せる胡桃沢さんが微笑んでいた。


「どう? 可愛いでしょ!」

「……ちょ、ちょっと! 胡桃沢さん、これなんですか!」

「何が?」

「このあさひくん♡ゆきのちゃんのことです!」

「あっ! 可愛いよね! 宮下くんが待ってる時に書いたよ! 可愛い〜」

「じゃなくて! こうなると……、クラスメイトに見られるかもしれません! そして変な誤解を招く行為です!」

「私は構わないけど……? 問題あるの?」

「えっと……、俺たちまだ恋人じゃないんですけど……」

「じゃあ……、付き合っちゃおうかな?」


 えっ?


「な、な……なんですか! それ!」

「だって、私は構わないのに……。ずっと一人で慌ててるから……私のこと心配しなくてもいいよ。どうせ、そんな噂気にしないし。もし何か言われても、宮下くんがそばにいてくれるから……、それでいいと思うけど……。ずっとそばにいてくれるって言ったじゃん」

「は、はい……」


 確かに……。

 反論できない、その通りだった。


「ううっ……、このバカ!」

「ご、ごめんなさい」

「宮下くんはどうしてそんなことを聞くの……? 私の言う通りにするって言ったくせに……」

「あっ、すみません」

「約束は約束だよ……。私たち……そんな約束をしたからね? スマホちょうだい」

「は、はい」


 それにしても俺の頬を掴んでるそのプリクラは本当に恋人っぽく見えるから、すごく恥ずかしかった。

 それをわざわざスマホの後ろに……。


「あれ……? 宮下くん、私と同じ機種なの?」

「えっ? そうですか?」

「うん。同じ〇〇13ミニだね!」


 全然、知らなかった。スマホも一緒だったのか、俺と胡桃沢さんは?


「はい! 宮下くんがうっかりしないように後ろに貼ってあげたよ!!」

「は、はい……」

「これで、私と一緒! 好き♡」

「…………」

「へへっ……♡」


 まあ、どうでもいい。

 胡桃沢さんが喜ぶなら……、俺もそれでいいと思っていた。


「じゃあ、私入るから! 家まで送ってくれてありがとう! 宮下くん」

「はい」

「着替えたらすぐ連絡するからね!」

「はいはい〜」


 そして、二人の姿を誰かがずっと見つめていた。


「宮下くんと胡桃沢……雪乃……? どうして……?」

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