五、承認欲求
24 胡桃沢雪乃が嫌い
クラスで一番可愛い女の子。
男女問わず、誰にも優しい女の子。
学校の数多い人に噂される女の子、それは全部「胡桃沢雪乃」が博している当たり前のような権利だった。クラスの中心にはいつも胡桃沢雪乃がいて、普通の女の子は彼女の周りで「胡桃沢雪乃はすごい」とそんな雰囲気をみんなに見せつけるだけだった。
一緒に歩くと、男子の視線が集まる……。
その中にはイケメンもけっこういるから、彼女のそばにいるとお得だと思う人が多い。少なくとも、このクラスにいる人たちは全員そう思っていた。カッコいい同級生や先輩がうちのクラスにくるから……。
だから、私も胡桃沢雪乃のそばにいた。
話をかけて、仲良くなって、彼女と友達になりたかった。
「ねえねえ! 私、彼氏できたよ!」
「えっ? そうなの?」
「うん……。雪乃ちゃんに振られた人だけど、私は…あの人けっこう好きだったからね……! 十日間彼とゆっくり話してみたら、先日告られちゃったの!」
「へえ……、おめでと〜」
そうしたかった理由はとても簡単だった。
彼女のそばでいつもしつこく付き纏っていた女の子に彼氏ができたから。それが胡桃沢雪乃の力だった。初めて声をかける男子にも優しく話すから、そのそばにはいつもいろんな人がたくさん集まっている。
私はある人と仲良くなりたかった……。
いつもクラスの隅っこで静かに勉強をする人。
彼の名前は「宮下朝陽」、私は……宮下くんのことが大好きだった。
だから、あの日……私は二人が何をするのかずっと尾行していた。
カフェから……家に帰る時まで、ずっと。
「宮下くん……」
絶対、私をがっかりさせない人だと……ずっとそう思っていたのに。
振られてもいつか私と付き合ってくれると思っていたのに……。
「…………どうして、どうして……私の宮下くんが胡桃沢雪乃と一緒にいるの? うん……? 偶然だよね? 誰か偶然って言ってよ……」
私はこの目で見てしまった。
宮下くんがあの胡桃沢雪乃と一緒にいる姿を……。
二人で仲良くカフェに行くのも、二人で仲良くプリクラを撮るのも、二人で仲良く雑談をするのも……。それは全部私が宮下くんとやりたかったことなのに……。私があんたの周りにいたのは、いつか宮下くんが声をかけるかもしれないからだよ。だからずっと待っていたのに、どうしてあんたが私の宮下くんとデートしてるの……?
それにそんな大きいぬいぐるみまで……、どうして……。
私には彼女を作るつもりはないって言ったくせに、胡桃沢雪乃ならオッケーってこと……?
「…………」
あり得ない……、これは夢だよね?
うん。夢……、悪夢だから……私の宮下くんがあんなことをするわけないよね?
「宮下くんの居場所は……、私のそばだから」
……
夏休みが終わった後、私は胡桃沢雪乃を宮下くんから引き離すことにした。
気に入らないけど……、これならきっと胡桃沢雪乃にダメージが大きいはずだからね……。
スマホをいじっていたいちかが『送信』ボタンを押す。
「…………ふふっ」
そしていつもより明るい顔で登校するいちかが、二人を待っていた。
教室に一人ずつ入ってくる生徒たち、その中にいる一人がSNSからある写真に気づいてしまう。
「あれ……? これって……雪乃ちゃんじゃない?」
「うん? 雪乃ちゃん?」
やっぱり、みんなSNS大好きだもんね……?
そうだよ。そこに写ってるのはみんなの憧れ、胡桃沢雪乃だよ。男とデートをして家まで一緒に行く姿を、その決定的な証拠を私が撮っちゃったから……。あの胡桃沢雪乃がみんなに何を言われるのかな……、楽しみだね。
「みんな、おはよう」
来た!
「お、おい! 雪乃ちゃん、これ嘘だよな?」
「うん……? 何が……?」
「この写真に写ってるのは雪乃ちゃん? そばにいるのは誰? 雪乃ちゃんって彼氏作るつもりないって言ったよな?」
「え……?」
今までずっと「彼氏を作るつもりがない」って言った胡桃沢雪乃は、今から数多い男たちにその理由をちゃんと説明しないといけない。うちの学校にはバカしかいないからね。そしてその中にはしつこく付き纏っていた男もいるから……。みんなに「平等」だと思っていた男たちは、胡桃沢雪乃に裏切られたと思うはず。そこが楽しみ。
そして、その噂に巻き込まれてしまった宮下くんを私が支えてあげる。
完璧なプランだよね?
少し……傷つけることになるかもしれないけど、そんなのどうでもいい。あの女から引き離した後は私がずっとずっとずっと……、可愛がってあげるからね? 宮下くん……。心配しなくてもいいよ。
「そばにいる人? あ……なんで、それを聞くの?」
「雪乃ちゃんは誰とも付き合わないって……言ったじゃん」
夏休みの前に振られて怒ってるの……? あははっ、可愛いね。
どんどん楽しくなるじゃん。
「…………」
そしてこのタイミングに朝陽が登校した。
「あれ……?」
クラスの人たちが朝陽を見つめる。
「おい……、宮下」
「うん?」
「お前、雪乃ちゃんと付き合ってるのか?」
「えっ……? いきなり?」
宮下くんだぁ……! 今日もカッコいい……。
でも、あの人は……けっこうしつこい男だけど、大丈夫かな。
「えっ?ってなんだよ。なんで、お前が雪乃ちゃんと……」
「…………」
「ちょっと声大きいから……!」
「ゆ、雪乃ちゃん……」
これでいい。裏切られた人の気持ちが、どんどん二人の心を蝕むはず……。
だから、私は待っていた。
「あのさ、なんで何も言わないんだ……? 宮下」
「…………それは」
少しだけ我慢してね。宮下くん……♡
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