21 多分デート

 こんな夏休みは初めてだ……。

 まだ忘れていない。

 もし、今日が平日だったらきっと寝られなくて遅刻したはずだ。仲がいいってどんな意味だろう、そんなことばかり考えて、気づいたら朝になってしまった……。胡桃沢さんにあれを言われてからもう三日も経ったけど、俺の頭にはまだあの時の記憶が消えないまま残っていた。


 女子に好きって言われたのは多分……初めてかもしれない。


 ブーブーブー。


「おい! 朝陽、今日FFの発売日だぞ! 俺は買ったけど、今日やるよな?」

「今日……? 今日……、何日?」

「17日だけど?」

「あっ……、ごめん」

「もしかして、今日もダメなのかお前!」

「あ、ごめん……。今日は……約束があるからダメだ。また今度にしよう!」

「えっ? お前、三日前も約束あるって言っただろ? また約束かよ! いや、待って……もしかしてあれか? 朝陽、あれなのか?」

「いや……、家族が来るから……」


 さりげなく嘘をついてしまった。

 実は今日胡桃沢さんと外で会う約束をしたから、彼女のことをまだ諦めてない晶には正直に言えなかった。俺たちの関係を友達だと言っても、多分……信じてくれないと思う。それに胡桃沢さんは可愛い人だから、誰が見ても俺たちがただの友達には見えないはずだ。


「そっか……、仕方ないな〜。ラスボスまで行くにはお前が必要なのにな〜」

「ごめん。次は一緒にラスボスまで行こう……」

「オッケー」


 電話を切った俺が服を着替える時、机に置いたスマホに電話がかけられた。


「雪乃ちゃん…………」


 これにはわけがある。

 連絡先を交換したあの日、俺は「胡桃沢さん」と打つつもりだったけど……。

 そばから「そんなの可愛くない!」ってめっちゃ怒られて……、気づいたら胡桃沢さんにスマホを取られてしまった……。だから、俺のスマホには「胡桃沢さん」ではなく「雪乃ちゃん」になっている。


 彼女でもあるまいし……、こんなことをしてもいいのかな。


「ねえ! 出るの遅い!! そして誰と電話してたの?」

「す、すみません……。えっと……。今は着替え中で、先まで晶と電話してました」

「なんで?」

「あっ、それが……。今日がFFっていう人気ゲームの発売日で……」

「私との約束は忘れてないよね?」

「もちろんです。だから、晶にはまた今度にしようって言っておきました」

「うん!! 今日は宮下くんと外で会う日だから、これはあれだよね! デート!」


 胡桃沢さんと……、デートになるのか。

 そりゃそうだな……。男女二人で外を歩き回ると、そう見えるかもしれないな。


 デートか……。

 待って、デート……?


「服はこれでいいのか?」


 普段なら一切悩まないはずの私服に、今日は30分くらいかかってしまった。

 胡桃沢さんはすごく可愛い人だから俺もそれに合わせないといけない……。

 ふと、外に出るのが怖くなってしまった。


「…………」


 陰キャですみません……。


 ……


 繁華街、時計が見えるところで彼女と会う約束をした。


「あっ、宮下くん———!」


 いやいやいや……、そんな遠いところで呼ばなくても……。

 繁華街には人が多いから恥ずかしくなりますよ……! 胡桃沢さん……。


「待ってました……?」

「うん。待ってたよ!」

「えっと……、一応約束時間より20分早く来ましたけど……」

「待ってた!」


 何かあったのかな? どうして普段よりテンションが上がってるんだろう……?

 そして、目をキラキラしてそんなことを言わないでくれぇ……。心臓が持たない。


「ねえ、宮下くん! 今日の私、どー!」


 白いオフショルダーに黒いミニスカートは可愛すぎるだろ。反則だぞ、それ。

 そして首にはネックレスとチョーカーまで……、いわゆる陽キャそのもの。


「…………え、えっと」


 胡桃沢さん……、俺が凡人でごめんなさい……。

 なんか遺伝子レベルで負けてしまったような……。


「…………どー!」

「か、可愛いです……! なんで今日、こんなに可愛い格好してるんですか?」

「今日だけじゃないよ? 宮下くんと遊びに行くから! いつも努力してるの!」


 天使様ぁ! 優しすぎる!

 きっと俺が知らないところで頑張ってるんだろう。

 その存在が眩しすぎて、胡桃沢さんを直視できねぇ……。目が……、目が……。


「うん?」


 それにしても、胡桃沢さん身長伸びた……?


「あれ? 気づいたの?」

「えっ……?」

「私! 身長伸びたよ!」

「そ、そうですね……」


 そして、履いてる靴を俺に見せる胡桃沢さん。

 めっちゃ高いヒールじゃないか……、それ歩けるのか?


「10センチ! 今日の私は強いっ!」

「でも、足挫けないように気をつけてください……」

「うん!! 今日は帰る時まで宮下くんにくっつく予定だから心配いらないよ!」

「そ、そうですか……」


 帰る時まで……くっつく。


「デートだからね?」

「はい」


 俺が174で、胡桃沢さんが155くらいだから……。

 うん。すごく伸びたな。


「あの……、胡桃沢さん。今日、行きたいところがあるって」

「そうそう! 一緒に行きたいところがたくさんあるからね!」

「は、はい……!」

「行こう!」


 すぐ朝陽にくっつく雪乃。


「…………」

「へへへ……」


 そして近所のカフェから出てくる女子たち、その中の一人が雪乃に気づく。


「あれ……? あの人……雪乃ちゃんじゃない?」

「どこ?」

「あっち、誰かと一緒にいるけど……。彼氏かな?」

「え? 彼氏って……。あれ、宮下じゃね?」

「宮下くん……? 確かに……、似てるかも」

「えっ? 宮下くんあっちにいるの?」


 片手に飲み物を持って、二人の後ろ姿を見つめるいちか。

 彼女の瞳には朝陽の姿が映っていた。

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