20 ピリピリ④
「どうしたの……? 宮下くんに聞いてるけど……」
ドキッとして、心臓の鼓動が速くなる。
でも、胡桃沢さんは知っていた。
俺が彼女に欲情していたことを……。そんな汚い想像はしてないのに……、くっついてる時の距離感が俺をそうさせた。普段なら我慢できるはずだったけど、近い距離で感じられる体温と匂いはどうにかできることじゃなかった。
本当にずるい……。
自分だけ……そんな純粋な顔をしていて。
「す、すみません……」
「どうして謝るの? 私、別に怒ってないけど」
「じゃあ……、どうしてそんなことを……?」
「ずっと……私に触れていたから。なんとなく、気になってね〜」
「……すみません。だから、距離を置きたかったのに……。あの! あの……、本当にいやらしいこと考えていないから。ご、誤解しないでくださいと……言っても、ダメですよね」
この状況、思春期の俺にはすごく刺激的だった。
膝の上に乗っている胡桃沢さんは俺と目を合わせていて、その両手が俺の腕を掴んでいる。近すぎる二人の距離……。それに、あの胡桃沢さんの前で醜い姿を見せてしまって……、俺の人生はここまでだなと思っていた。
「…………あははははっ、男の子だからね? 宮下くん……」
「…………」
「ねえ、聞きたいことがあるけど……」
「はい?」
「宮下くんは私のことをどう思うの……?」
「いい……友達……だと思います」
「好き?」
それは答えづらい。それより俺が胡桃沢さんに好きって言ってもいいのか?
俺とは全然違う世界に住んでる人だから、友達になって、今こんな風に遊ぶだけで十分だと……俺はずっとそう思っていた。なのに……、こんな状況で俺に好きって聞いている……。そんな彼女にどう答えたらいいんだろう。
告白とかできるわけないしな……。
「よ、よく分かりません……。胡桃沢さんのこと……、今は……」
「私は好きだけど……? 宮下くんのこと、けっこう好き」
「えっ? え————————っ!」
「びっくりした……。そんなに驚く必要あるの?」
「だ、だって……今のあり得ないと思って……」
「なんで?」
「いやいや……、あの胡桃沢さんがどうして俺なんかに好きって言うんですか?」
「ううん……。ずっとそう思ってたけど、口にするのがちょっと難しくてね」
「は、はい……」
一瞬、頭が真っ白になる。
それは聞き流してはならない言葉だった。
「女の子はね……。好きでもない人とこんなことしないからね……?」
そのまま俺を抱きしめる胡桃沢さん、これも「感謝の意味」のハグかな……?
それに胸が当たる。
今の胡桃沢さん……、めっちゃ可愛くて堪らない。勘弁してほしい……。
「は、離れてください……。俺、もう限界です」
「ねえ……、宮下くんは恋愛経験あるの……? 正直に答えて欲しいけど……」
「あ、あったんですけど……。すぐ振られちゃって……なかったことにしています」
「ふーん。そうなんだ……。可哀想……、こんなに可愛いのにどうして振られたのかな……?」
「わ、分からないんです。理由くらいは聞きたかったけど、言いたくないって言われたから……仕方がありません」
「うん……。ねえ……、知ってる?」
「はい?」
「宮下くんの心臓……。すっごくドキドキしてるから気持ちいいよ……」
「……は、恥ずかしいこと言わないでください……」
「私の鼓動も宮下くんに伝わるのかな……?」
ぎゅっと、雪乃は思いっきり朝陽を抱きしめた。
「…………ふふっ」
朝陽の体温と鼓動……、そして自分に欲情することまで全部確認した雪乃は下を向いて静かに息を吐いていた。
彼女は真っ赤になった顔で、精一杯笑いを我慢する。
そして「気持ちいい……」と小さい声で呟く。
……
抱きしめられたまま……、胡桃沢さんと話を続けていた。
元々映画を見るつもりだったのに、これはダメだな。
頭の中が複雑すぎて……、胡桃沢さんとの会話はほぼ本能に頼っていた。自分が何を言っているのかすらよく分からない状態。その場でただドキドキする気持ちを感じるだけだった。
「この前も……、私の話をちゃんと聞いてくれるって言ったし……。宮下くんは頼りになる人だから……、私も宮下くんのことが好きになるのよ。他に理由はない。それだけ……」
「は、はい……」
「こんなこと言わなくても、私の気持ち……ちゃんと分かってくれると思っていたのにね……。ダメだったのかな?」
「あの……、女子の気持ちとかよく分からなくて……。だから、この前の……小林さんのことも……。なんかすみません」
「いいよ。初めてだよね……? そんなこと。だから、許してあげる……。でも……またあんなことをしたら、あの時は……」
「は、はい……」
「お仕置きだよ?」
片手で俺の頬を触る胡桃沢さんが笑みを浮かべる。
人に惚れるってこんな感じか。
信じられないことばかり……、本当に……信じられなかった。
「映画の続きが見たい……、そばにいてくれるよね?」
「は、はい……!」
「へへっ」
そして、突然振り向いた胡桃沢さんが俺に声をかける。
「本当に……宮下くんは私との約束をちゃんと守ってくれるよね? また破ったりしないよね?」
「は、はい……」
「私には……宮下くんしかいないから…………。今の話絶対忘れないでね……?」
「は、はい……」
「うん……」
再び映画に集中する二人……、俺は何も聞こえないほどすごく緊張していた。
「…………好きぃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます