15 相談②
「へえ…………、宮下くんは小林さんと連絡してたんだ」
ラ○ンを見せる胡桃沢さんが冷たい声で話した。
今までずっと明るくて可愛い声だったのに、それが一気に変わる。
てか、胡桃沢さんと付き合ってる関係でもないのに……どうして俺は浮気がバレたように焦ってるんだろう。特に悪いこともしてないし……、胡桃沢さんにも迷惑とかかけた覚えはないと思うけど……。ただ焦るだけ。
「あの……、連絡先をもらったのは今日です」
「そんなの興味ない。なんで、小林さんと連絡してるの?」
「あ……、多分。その……カラオケのことで」
「…………告白されたの? この人に」
「は、はい……」
そしてソファに座る胡桃沢さんと話を続けていた。
とはいえ、一方的に怒られているような雰囲気……。
本当に相談をしてもいいのか、俺は悩んでいた。
「全部話して、もし私に隠したことがあったら……絶対許さないから」
「どうせ、あの人の告白は断ったから……」
「それだけ?」
「はい」
「それだけなのに、どうしてそんなに悩んでたの? おかしいでしょ? 宮下くんは何かを隠してるんだよ! 話さないと私今日帰らないから……!」
「そ、それはちょっと……! でも、本当に嘘とかついてないから……心配しなくてもいいですよ。ただ……」
「ただ……?」
「なんか、胡桃沢さんの気持ちが分かりそうな気がして……。やはり人の気持ちを断るのはつらいことだなと思いました」
すると、そばから頭を撫でてくれる胡桃沢さんだった。
「…………あの人に未練とか残ってないよね?」
「未練など……ないんです。まだ誰かと付き合うつもりはないから……」
「そう……? 好きな人もないの?」
「ない……と思います。それにしても……、小林さんがこんなラ○ンを送るとは思わなかったんです」
「宮下くんの連絡先……私も持ってないのにね」
「……えっ」
少し静寂が流れた。
そしてじっとこっちを見つめていた胡桃沢さんが、さりげなく俺の膝に座る。
いきなり変な展開になってびっくりした俺は、体が固まって……声も上手く出てこなかった。「あ…、あ…」と言葉を失ったまま膝に座る胡桃沢さんと目を合わせるだけ、どんな抵抗もできなかった。
彼女に抱きしめられた時は「感謝の意味」って言われたから、適当に受け入れるのができたけど、今のはちょっと……。やりすぎでは。
「…………離れて…ください。胡桃沢さん、俺…こんなことダメだから」
「じゃあ、私にも連絡先教えてくれるよね?」
「は、はい……」
「宮下くんは……私のことを支えてくれるって言ったからその約束をちゃんと守ってよ……。それって告白ほぼ同じ意味でしょ?」
「えっ……? そうなんですか? 俺は普通に……」
「何……? 違う……?」
「違わない……と思います」
いけない……。頭が真っ白になって自分が何を言ってるのか全然分からない。
連絡先……? 告白……? 同じ意味って何……? それより胡桃沢さんが俺の膝に座ってるのが一番気になることだった。緊張しすぎて息が詰まる。しかも、胡桃沢さんスカートはいてるから……俺の方から動くのもできないし。恥ずかしすぎて、何もできなかった。本当に……何もできなかった。
「顔……赤くなってるけど、大丈夫?」
胡桃沢さんのせいです……。
「はい……」
「スマホのロック解除して」
「はい……」
彼女の前でスマホのロックを解除した。
そしてラ○ンのアプリを開いた胡桃沢さんが、俺にスマホを渡す。
「この子……、ブロックして」
「えっ……? こ、小林さんのことですか?」
「うん。どうせ興味ない人だよね? 宮下くん」
「そ、そうなんですけど……」
「じゃあ……ブロックして、私の前で……この子をブロックして。そして今日ブロックしたのは解除しないでほしい。私が言ってること……分かるよね?」
「どうして……、そこまでしなくても……!」
「私は……、宮下くんが他の女の子とイチャイチャしたり、先みたいに連絡するのは嫌……。やっと……頼れる人を見つけたのに……。いや、ごめんね。そんなことやっぱりやりたくないよね? 私…のことばっかり考えてて……」
なんか、泣き出しそうな言い方……。
「……ごめんね。こんなことをしないと不安になるから……」
そうか……、胡桃沢さんはそれが不安だったのか。
やっと自分の居場所を見つけたのに、俺が他の人と付き合ったりすると……また一人ぼっちになるから……。それがずっと怖かったかもしれない。俺は胡桃沢さんと約束をしたから……。だから小林さんより……、胡桃沢さんの方がもっと大切だった。二度と彼女を泣かせたくないって……、あの時の俺はそう決めたから……。
「いいえ……。ブロックします。どうせ……、断ったし。約束はちゃんと…守りますから心配しないでください」
彼女の笑顔は可愛かった……。
だから、ずっとそれが見たくなる。
「いいの……? やりたくないなら……、やらなくてもいいけど……」
「気にしないでください! 胡桃沢さんの言う通りにします」
「うん……!! 私の電話番号教えてあげるから……!」
「あっ、はい……!」
そして、じっとスマホの画面を見つめる胡桃沢さん。
「宮下くんって……清水くん以外にはあんまり友達いないんだ……」
「はい。ほとんどお母さんと晶だけで……。最近は勉強とゲームばかりだし、誰かと連絡をすること自体が減ってしまいました」
「へへ……。これが宮下くんのラ○ン! めっちゃ嬉しいっ!」
「こちらこそ、憧れの胡桃沢さんと連絡先を交換して光栄です」
「何その言い方! 私も普通の人ってこの前に言ったでしょ?」
「はいはい……」
「……宮下くんは意地悪い!」
頬を膨らませる胡桃沢さんに、つい笑いが出てしまった。
やはり相談をすることより彼女と普通に話した方が良かったかもしれない……。
そして———。
「そろそろ……降りてください。は、恥ずかしくないですか……?」
「えっ? 何が?」
「女の子が男の膝に座ってることです!」
「…………別に、恥ずかしくないけど……?」
「こんなに近いのに……?」
「何? ドキドキするの……?」
「へ、変なこと言わないでください……。お願いします……」
「ふふっ。反応、可愛い!」
「…………」
それより全然気づかなかったけど……、胡桃沢さんが俺の膝に座ってるのにあんまり重くない。めっちゃ軽い、本当に天使様かよ……。
「その顔、可愛いからもっともっと見せてよ!」
「恥ずかしいから、からかわないでください!」
「あはははっ」
笑みを浮かべる彼女。
そして俺はあの胡桃沢さんと連絡先を交換した幸運の男になってしまった。
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