13 女子からの誘い③
「…………」
「だよね……?」
なんか、小林さんと一緒に来たことに肯定しないといけないような気がする。
彼女が欲しがるその言葉を……俺はよく分からなかった。
目をキラキラしてこっちを見てるけど……、答えづらいし。なるべく、避けたい話だった。俺たちは今日初めて話して、初めてカラオケに来て、さりげなく歌を歌ってるから、なんの接点もない彼女に俺が言えることは何もなかった。
じっとして、小林さんと目を合わせるだけ。
「違う……?」
「えっ……。あの……、その話の意味がよく分からないっていうか……」
マイクをテーブルに下ろして、席に座る小林さん。
その目がずっと俺を見つめていた。
「……私は、宮下くんとカラオケに来て……すごくドキドキしてる」
「…………そ、そうですか」
「うん。あのね……! 実は、私……ずっと話したいことが……あったよ!」
「はい。なんですか……?」
体を寄せてくる小林さん、逃げ道がなかった俺は後ろに倒れてしまう。
ずっと緊張していた……。彼女の顔が目の前にいるから、じっとするのもできないし、スクールバッグのせいで襲われたような姿勢になってしまう。話したいことがあるのは分かってるけど、こんなに近づく必要はあるのかな……。やはり女子が何を考えているのか、全然分からない。
「あっ……、ちょっとエッチな姿勢になっちゃったよね。宮下くんが離れようとするからこうなっちゃうのよ……」
「あの……、ちょっと離れてくれませんか?」
「でも、私……近いところで宮下くんと話したかったよ……。ずっと」
近すぎでは……。
「はい……。でも、この姿勢はちょっと…恥ずかしいですけど」
「私、宮下くんのことが好き」
「えっ……?」
もしかして、カラオケで言いたかったことはこれか……?
「どうして……俺にそんなことを言うんですか? 確かに……、今日初めて話したんじゃ……?」
「話をかけたのは今日が初めてだけど、私入学した頃からずっと宮下くんのことを見ていたよ……? 宮下くんって、運動もできるし、勉強もできるし……。でも、女の子とはあんまり話さないから……そこがすごく気になってて……」
「はい……」
「気づいたら、宮下くんのことを目で追っていたよ……。女の子が苦手だから声をかけないのも、女の子の前で慌てるのも……、そんな宮下くんが可愛くて…可愛くて堪らない!! 女の子が苦手な男子はめっちゃ好きだから……私」
なんか……、怖いな。
両手で俺の肩を掴む小林さんが微笑んでいた。
それにどんどん力を入れる……。
「た、確かに……女子は苦手ですけど、今は……」
「私ね! 宮下くんに女の子を教えてあげるから……!」
「えっ?」
「だから……、私と……付き合ってほしい。宮下くんのことが好きだよ……」
俺を見ている小林さんの顔が真っ赤になっていた。
これは……晶の話通り、告白……。でも、俺は小林さんのことを全然知らないからその告白を断るしかない。女子に告白されるのは初めてで、このわけ分からない気持ちを感じるのも初めてだった。少しは胡桃沢さんの気持ちが分かりそう……。この状況で相手の告白を断るのはそう簡単なことじゃなかった。
「好き……、宮下くん。何か言って……」
「…………」
ごめん。
その言葉が出てこなかった。
「……もしかして、私のこと……好きじゃないの?」
「ご、ごめんなさい。あの……、小林さんはいい人だと思います。でも、付き合うのは別の話だから……今は友達でいいんじゃないかなと…思います」
「…………なんで?」
「え……」
「私のこと嫌い……?」
「いいえ。嫌いとかじゃなくて……」
「じゃあ……、どうして断るの……? 私……、可愛くないから嫌い……?」
「いいえ。そんなことじゃなくて……、小林さんは十分可愛いですよ! でも、今は友達のままでいいと思います……。恋人とか、まだ俺には早いから……」
小林さんはどうして俺に告白したんだろう……。
俺以外にもいい人クラスにたくさんいるのに、人の心を断るのは辛いことだった。
それに今の状況がやばい。すぐ前に小林さんがいるから、腕の力を抜けると彼女とくっついてしまう。そして肩に置いている両手が気になるけど、今はそれを言うところじゃなかった。これは、誰かに見られたら絶対誤解される状況。
もし俺が胡桃沢さんだったら、はっきり断ったかもしれないな。
いや、そうでもないか……。
「嫌よ。宮下くんが他の女と付き合うのは……嫌だから! 取られたくない……。今まで言えなかったけど……、ずっと好きだったから……!! 私以外の女と付き合うのは嫌だよ……!!」
「べ、別に……好きな人とか……」
すると、脳裏を過ぎる彼女の姿———。
どうして、今胡桃沢さんのことを思い出したんだろう……? これ、胡桃沢さんがうちで話した時と……雰囲気が似てるような気がする。胡桃沢さんはあの日……俺に「支えてほしい」と言ったよな。なぜ、今彼女の言葉を……。
「ご、ごめんなさい! 今は…無理です。そして……小林さんはいい人だから、きっと他にいい彼氏ができるはずだから! じゃあ……、さ、先に失礼します……」
「い、行かないで……宮下くん!」
「すみません。もう、無理です」
「…………」
女子に告られたのが初めてだからか、嬉しいことよりすごく不安だった。
同じクラスの人だから……、優しい言い方で断るつもりだったけど。そもそも、優しく断るってなんだ……? そんなことができるわけねえだろ……。カラオケから出る時、小林さんの友達と会ったけど、二人のことを無視してすぐ家に帰る俺だった。
「はあ……」
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