12 女子からの誘い②

 放課後、女子たちとカラオケか……。

 カラオケ自体は晶とたまに行くからいいけど、女子ばかりという状況がすごく気になる。でも、女子経験がほぼゼロに近いから一緒に行くと勉強になりそう。胡桃沢さんと話す時も……毎回慌てて頭が真っ白になるから、これはいいチャンスかもしれない……。


 そして、机を片付ける晶に声をかけた。


「晶」

「うん?」

「俺さ、今日クラスメイトにカラオケに行こうと誘われたけど……」

「へえ……? 珍しいな。誰?」

「えっと、小林さん」

「いいじゃん。行ってこい! 俺はダメだったけど、お前ならいける!」

「何が……?」

「おいおい……、女子がカラオケに誘った理由はしかねぇんだろ?」


 言いたいことは大体分かってるけど、そんなことはないと思う……。

 今まで全然話したこともない人に……、いきなり「好き」って言うのはおかしいだろう? どう考えてもそんなことを言い出すのは無理だと思っていた。ただのクラスメイトだし……。それに他の女子たちもクラスの男たちとカラオケに行ったりするから、俺が誘われたのも普通だと思う。


 ただ……俺一人なのが問題。


「お前は行かないのか? 正直……、女子ばかりだからちょっと困るのもある」


 すると、何かを思いついた晶がにやつく。


「やっとお前にも春が来たのか?」

「はあ? そろそろ秋が来るけど……?」

「それじゃねぇ……。つまり! 朝陽、お前にも彼女ができるかもしれないってことだ!」

「まだ答えてないけど、やはり行ってきた方がいい?」

「当然だ。お前、俺よりも女子経験ねえだろ? いい経験になりそうだし。俺も一緒に行きたいけど……、今日はお母さんを手伝わないといけないから無理」

「そっか……。じゃあ、行ってくる」

「行ってこい!」


 そして放課後———教室に戻ってきた雪乃が朝陽を探している。


「あっ、清水くん……」

「く、胡桃沢さん……。ど、どうしましたか?」

「あれ? 今日は一人?」

「はい。朝陽は今日カラオケに誘われて、先そっちに向かいました」

「……そう? 清水くんは行かないの?」

「今日は用事があって……」

「へえ……」


 ……


 一応……小林さんについて来たけど、女子三人に男は俺一人だけだった。

 最初からこうなることを知っていたのに……やっぱり俺は間違った選択をしたのかな。全然知らない人とカラオケなんか、今更だけど無理だよぉ……。それに小林さん以外の人はギャルだから、ある意味で怖いし……。左側にも右側にも全部女子ばかりで、先からなんか話してるけど、話に入れない俺だった。


 何がいいチャンスだ……。晶……。


「あのね。宮下くん」

「はい?」

「宮下くんって、いつもそんなに緊張するの?」

「いいえ……。晶といる時は緊張しないんです……」

「宮下ってさ。顔はいいけど、自信がないからモテないんだよ」

「なんか、すみません……」


 左側にいるギャルに一言言われた。


「あっ、そうだ。いちかちゃん、私たちはこっち行くから終わったら連絡してね」

「うん! じゃあ、楽しんで」

「うん」

「えっ……?」


 カラオケには一緒に来たけど、あの二人は他の部屋に入ってしまった。

 あれ、一緒じゃなかったのか……?

 ぼーっとしてそれに疑問を抱く時……、そばから腕をつつく小林さんが俺を他の部屋に連れて行った。


「あ、あの……。小林さん、どうして二人だけ……この部屋に?」

「言うのをうっかりしてたけど、今日カラオケで歌うのは二人っきりだから……」

「はい?」

「ごめんね……。でも、料金は全部払ったから……宮下くんは歌うだけでいいよ」

「それはちょっと……半分は払います!」

「いいから! 私、宮下くんと一緒に歌いたい曲あるけど!」

「はい……?」


 狭い個室で小林さんと二人っきり……。しかも、そばで曲を選んでるし……。

 これは本当に役に立つのか? 勉強になるのか……?


「…………よっし! 決めたよ」

「…………」


 肩が触れるところに、小林さんが座っていた。

 恥ずかしいから少し離れたかったけど、隣にスクールバッグを置いていて、それは小林さんも一緒だった。


 狭い個室……、その真ん中の席に俺たちが座っている。


「ねえねえ! 一緒に歌おう」

「はい……」


 てか、曲のタイトルが……。


「あなたは私の気持ちを知らない……か」

「あっ、これ知ってる? 最近けっこう流行ってる曲だけど……!」

「聴いたことはあります。一応……」

「はい。マイク!」

「は、はい……」


 聞き慣れたメロディー。

 俺も晶もロックが好きだったから、何度も聴いたことがある曲だった。まさか、クラスの女子とこれを歌うことになるとはな……。人の前で歌うのはあんまり恥ずかしくないけど、女子がそばにいるから声がすごく震えていた。


「…………」


 それより、小林さんはどうして俺とカラオケに行きたかったんだろう。

 その理由を聞きたいのに……、急に二人っきりになって今は歌を歌っている。


「うわ……! 宮下くん、歌上手い!」

「そう……ですか? たまに晶とカラオケ行くから……」

「そうなの? え……、私男の人とカラオケに来たのは初めてで……! ちょっとドキドキしてるかも……」


 薄暗いからよく見えないけど、なんか照れてるような気がする……。

 気のせいだろう。多分……。


「確かに、そうかもしれませんね……。俺もずっと緊張してて……」

「それって……! 私と一緒に来て、ドキドキしたってこと?」


 いきなり声を上げる小林さんに、びっくりした。


「えっ……?」


 どうしてそうなるんだろう……?


 ……


「キャー! 二人……いい雰囲気だね」

「今日……いけそう?」

「ううん……。よく分からない」


 先からずっと朝陽といちかを覗いている二人だった。

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