第19話:王族だろうと容赦はしない
ギルドに戻り、王女がパーティに加わることになったことをメト、シャルに説明した俺は、シャルに4の字固めをかけられた。
「アンタねぇ! なぁにちょっと別行動してた間にとんでもない人をたぶらかしてんのよ! 馬鹿なの!? 死ぬの!?」
ごもっともである。
俺も、なんでこんなことになったのかと頭を抱えるばかりだ。
「フェイト、悪魔を1000体も倒してたんですねぇ……もっと頑張らないと」
メトは俺の虐殺数の方が気になるらしい。
あと、対抗心を燃やしてくるのはやめてほしい。
「お姉ちゃん食いつくとこおかしい! いやそっちも確かに異常だけども!」
4の字固めを維持したままメトに突っ込むシャルだが。
「うふふ、皆さん、仲がよろしいのですね」
王女はそんな俺たちの姿を見て、楽しそうに笑っていた。
「王女様までボケかよ! ツッコミが追い付かないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
シャルの悲鳴が、冒険者ギルドにこだました。
「《加護転換》! 《エンド・オブ・センチュリー》!」
「《加護転換》! 《エンド・オブ・センチュリー》!」
「《加護転換》! 《エンド・オブ・センチュリー》!」
「アーッハッハッハッハッハッハッハ」
「……きゅぅ」
「わーっ! 王女様が白目むいて失神してるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
いつもの爆撃で第9層を更地にしていると、今日は少しだけ後ろが騒がしかった。
まだ敵と戦ってすらいないのに王女が失神したらしい。
所詮王族など温室もやしか。仲間にするんじゃなかった。
「ちょっと! 王女様が失神したんだけど! どうすんのよこれ!」
シャルまでパニックに陥っている。
このままでは共倒れだ。なんとかしなくては。
ひとまず、爆撃を継続して戦線を維持しつつ、こちらの戦力を立て直すしかない。
「蹴り起こしてください! 《加護転換》! 《エンド・オブ・センチュリー》!」
「王族相手にも情け無用かあんたは! せめて爆撃をヤメロォ!」
シャルは相手が王族だから気兼ねしているようだ。
「礼節とやらを重んじて揺り起こしている間に魔物に食われたら本末転倒です!」
王族だろうが何だろうが、現在ただのお荷物であることに違いはない。
十億歩譲って戦力にならないことを許したとしても、せめて荷物持ち程度の使いでがなければ、危険な迷宮に同行させるに足るメリットがないのだ。
正直なところ、あまりにお荷物っぷりを発揮するようなら一度引き返して地上に放り出すしかない。
「えい~っ!」
シャルがやらないならばと、メトが王女を空高く蹴り上げた。
その一撃で、HPを消し飛ばされながら王女が宙を舞う。
攻撃力が爆上がりした闘士の蹴りならさもありなん。
「お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」
シャルが大慌てになりながらも、着地点付近の魔物を弓と魔術による射撃で牽制する。蹴散らすような威力はないようだが、その隙があれば、俺が動ける。
「おおおっ!」
俺はそこに踏み込み、王女をキャッチ。
「《加護転換》! 《エンド・オブ・センチュリー》!」
周囲の敵を薙ぎ払い、王女に《蘇生薬》をぶっかける。
「シャル! お願い!」
メトが俺たちの頭上にHP回復薬の詰まった袋を投擲し。
「ああもう! 展開についていけないよ! 《爆弾矢》!」
シャルがその袋を爆砕、俺と王女にHP回復薬の雨を降らせる。
「フェイト……様……」
目を覚ました直後の虚ろな声で言う王女は、いつか、戦力になるだろうか。
メトの域にまで、などという天地がひっくり返るような贅沢は言わないので、1億歩譲るので、シャルくらいに。
「《加護転換》! 《エンド・オブ・センチュリー》!」
「きゅぅ……」
……あまり望めないような気がしてきた。
起きて2秒で失神する虚弱王女を腕に抱えたまま、俺はどうやってこの足手まといを王宮に返品するかを真剣に考えるのだった。
「というわけで、作戦タイムです」
昼飯休憩を取りながら、俺は3人にそう宣言する。
「認める」
「なにが、『というわけで』なんですかぁ?」
シャルとメトはHPが上がる果物に手を伸ばしつつ応じてくれたが。
「も、申し訳ありません……」
王女はまだ気分が悪いのか、果物にも手を付けない。
「殿下、失神の原因をご説明願えますか」
俺の問いに、王女は目を伏せつつ口を開いた。
「申し訳ありません。HPが3割減った経験が一度だけありまして、あの時、死んでしまいそうなほど痛くて、苦しくて、辛かったのに、その、フェイト様のHPが一瞬で3割、しかも何度も消し飛んだのを見て、そのうえ高笑いされるものですから、恐ろしくなりまして……」
だいたい初日のシャルと同じ理由か。まあ、これについては感じ方の違いだろう。
この数日で、この世界におけるHPの意味も多少は理解してきた。
俺とて『また生えてくるから平気平気!』とか言いながら自分の右腕をちぎってそれを棍棒にするような輩が目の前にいれば目を回すだろう。
俺がやっていることがおおむねそういうものである以上、これは、俺が配慮すべきことだ。
とりあえず高笑いは我慢することにするとして、今は、俺はHPが減っても痛みを感じていない、という事を納得してもらうのが手っ取り早いだろう。
「殿下、これをかじってみてください。飲み込まなくていい。かじって、味を認識したらすぐ吐き出して構いません」
俺が差し出したのは、防御力が上がる果物。
「はい……うげぇ!」
王女は少しかじって、果物どころか胃の内容物を吐き出した。
「今のは、とにかくマズイと言われる、能力が上がる果物の中で、比較的ましな味であるとされる、防御力が上がる果物です」
王女のかじった果物を受け取り、俺はそれを頬張った。
「今体験していただいた通りの味ですが、俺はこの通り、おいしく食べることができます」
続けて、俺は筋力や速度が上がる果物をテーブルに並べた。
「これらは、さっき召し上がっていただいたものよりさらにマズイとされます。召し上がってご覧になりますか?」
王女がすごい勢いで首を横に振るのを確認し、俺はそれらをおいしくいただいた。
「この通り、俺は苦痛への耐性が異常に高いのです。俺のHP減少に痛みは伴わない。いや、伴ってはいるのでしょうが、少なくとも気になるようなレベルではない」
分かっている。
俺のしていることは、腕を引きちぎって棍棒にする男が『俺痛覚ないから大丈夫大丈夫』とか言っているようなものだという事は。
「ですから、殿下におかれましては、俺のことは気にせず、どうかご自身の実力を最大限に発揮することに集中なさってください」
それでも、《加護転換》の使用はやめられない以上、こうするしかない。
「は……い……」
まだ味の気持ち悪さで悶絶している様子の王女に、今度はかなり美味とされるHPが上がる果物を差し出す。
「ひっ……!」
王女の顔が恐怖に歪んだ。
また吐くほどマズイものを食わされると思ったらしい。
「恐怖刻み付けられてるじゃん」
「フェイトは鬼畜ですねぇ」
仲間に後ろから刺された。
「王女様、こっちのはおいしいので安心して食べてください~」
メトがニコニコと笑って同じものを頬張るのを見ても、王女は果物を受け取ろうとしなかった。
「あ、あなたも、味覚への拷問耐性が……これが冒険者……」
人間不信になってないか、この王女。
「いやほんとにおいしいから安心してくださいってば!」
怯える王女に、シャルも同じものを食べて見せる。
それを見た王女は、おっかなびっくりといった様子で俺の手から果物を受け取り、目を閉じて、ほんの少しだけ、かじった。
「……お、美味しい……」
「お口に合ったようで何よりです」
これで王女が俺の《加護転換》を見ても失神しなくなればいいのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます