第10話 瑕疵担保

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 俺たちが地上へ戻ったのは十五時過ぎだった。


 ギルドマスターが俺の戻りを待っていた。


 まだ、俺たちが探索者ギルドの建物に入らない内に誰かから連絡が行ったのだろう、ギルドマスターが表へ飛び出してきて俺を捕まえた。


「魔導士協会から連絡があった。ワンダルフ氏の身元は協会が完全に保証するそうだ」


「随分早かったな。返事は二、三日かかるんじゃなかったか?」


 ギルドマスターは胡散臭い相手を見る目で俺を見た。


「まったくだ。本当に、あんた、協会とどういう関係だ?」


「さて?」


 俺は肩をすくめた。


 はぐらかす俺にギルドマスターの表情が元に戻った。ビジネスライクな顔だ。


「今から見られるか?」


「資料室だ。そこにいる担当者に声をかけてくれ」


 俺は、鼻を、ひくりとさせた。


 ギルドマスターから明確に悪意の臭いが漂ってきた。


 なぜかは分からないが俺に悪意を抱いたらしい。


 さては協会嫌いか?


「わかった」


 ギルドマスターは軽く顎を引いて頷いた。


 次いでギルドマスターは俺の背後に控えたままの、ああ・・に声をかけた。


「おまえは、すぐにまた入洞だ」


「帰ったばかりだぞ」


 思わず俺は声を荒げた。


 ああ・・に対するギルドの扱いにムカついていた。


「休ませたいが、ああ・・が一番ミスリルスライムを発見できる。先ほど戻ったミスリルスライムとの遭遇確約ツアーで瑕疵が生じた。ツアーのやり直しだ」


「返金すれば済む話だろう」


「もともと金で経験値を買おうという客層だ。瑕疵担保として返金ではなくツアーのやり直しを求められたら断れん。監査員でないなら経営的なギルドの内部事情には口を挟まないでいただきたい」


 ミスリルスライムとの遭遇確約のガイドツアーは、このギルド特有のサービスだった。


 一般代金以上のツアー代金をギルドに支払う代わりに、ギルドはツアー客を必ずミスリルスライムと遭遇させる。


 そういうサービスだ。


 但し、遭遇したミスリルスライムをツアー客が倒せるか否かは別の話だ。


 大抵は倒せない。


 だとしても、遭遇ができなければ倒す可能性すら発生しない。


 万が一、ミスリルスライムとの遭遇ができなかった場合は瑕疵担保としてギルドには返金かツアーのやり直しを行う義務がある。


 通常は何もしなくてもダンジョン内を一通り歩けば一度くらいはミスリルスライムに遭遇できる。


 ギルド丸儲けのサービスだった。


 だが、今回は勝手が違ったようである。


 ギルドはミスリルスライムとの遭遇確率を上げるため索敵能力に秀でた、ああ・・を伴わせたいらしい。


「ポチ、働かざる者食うべからずだよ」


 ああ・・が俺の頭に手を置いた。


「おら、行ってくるだ。ポチは、いい子して、お家で待ってるだよ」


 ああ・・は俺の頭を撫ぜた。


 俺は引き下がるしかない。


 ギルドとも、ああ・・とも無関係な俺がこれ以上騒いで、俺が去った後、|

ああ《・・》が余計な折檻を受けるような目にあっては可哀そうだ。


「わかった」


 ああ・・は、再びダンジョンへ戻って行った。


 今夜も俺は馬小屋泊まりだ。

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