第8話 観光ダンジョン
8
「荷物なんかないでねぇか。おら、ポチをおんぶするだか?」
俺は、もともと各地のギルドや遺跡などを巡って魔族の痕跡を調べて回っている旅暮らしだ。
荷物は最低限度の必需品だけを小さなリュックサック一つにまとめた物だけだった。
秘境のダンジョンを目指す際には俺の体ほどもある巨大なリュックサックを持つか荷運び用のゴーレムを用意するが、ここは人里にある観光ダンジョンだ。大抵の物は買えばすむ話なので小さなリュックサックが一つあれば問題ない。
俺は
小さなリュックサックは貴重品が入っているので、むしろ自分で肌身離さず持つ。
俺は、どこのギルドへ行った際でも実際に現地を確認する行為を大切にしている。
ギルドの資料を見るにあたって実際のダンジョン内部を把握しているのとしていないのでは理解に差が生じるからだ。現地と資料の確認を気が済むまで繰り返す。
とはいえ、魔族に関連する手掛かりは、ほとんどないのが現状だ。
俺が魔族と遭遇して姿を変えられたのはレアケースもレアケースだった。
「いや。道案内をしてほしいんだ」
俺は、
「ミスリルスライムのいる場所だか?」
最近は、そのような依頼が多いのだろう。
「上から下まで隅々を一通り見て回りたい。経験値稼ぎは必要ないな」
「じゃあ巡回のロングコースだな。疲れたらすぐ言うだよ。おら、おんぶしてやるだ」
他には武器にも杖にも使えるような太い木の棒を一本持っている。
俺は、
スタンダードな石造りのダンジョンだ。
大きく切り出した石のブロックを組み上げて造られている。
天井部は上の重量を逃がすためにアーチ形の構造だ。
通路部は幅も高さも五メートル余りある。
観光用に特化したダンジョンであるため壁のところどころに松明を差すための受け具がついており松明が燃えていた。ギルドが後付けで整備した物だ。
したがって、観光客たちは自分で松明やカンテラといった明かりを持つ必要がない。
世間一般の普通の人々は、一生、暗いダンジョンになど入らない。
外を徘徊する魔物は駆除しても、わざわざ魔物が湧いて出るような場所に誰も好んでは行かなかった。
ダンジョンに入るのは探索者と呼ばれる一獲千金を夢見る命知らずの連中だけだ。
ただし、安全なダンジョンであるならば話は別だった。
休ダンジョンや死ダンジョンであれば一度駆逐した魔物は、ほとんど復活しない。
復活するにしても極めて弱い種類の魔物しか復活しないと言われていた。
魔物を倒せる力を有し道のりに精通したポーターを伴って歩けば極めて安全だ。
そのような仕事には引退した探索者がギルドに雇われて就いている場合が多い。
探索者気分を味わってみたいという人々に対して、ここのような観光ダンジョンは人気のアトラクションとなっていた。
物凄く運が良ければ復活したアイテムを手に入れられる場合もある。
もちろん大した品物は出ないが。
途中で他のポーターに連れられた観光客たちと何度もすれ違う。
探索者らしからぬ普段着姿だ。
さすがに子供は入洞禁止だったが、お化け屋敷気分で手をつないだカップルならばそこそこいた。
観光客たちはギルドから入洞時に禁止事項を説明され、万一の場合には自己責任となる旨の誓約書にサインをした上で入洞している。
俺のような本職の探索者である場合は言わずもがなだ。
地下二階以深はモンスター出現の可能性が若干高くなるため観光客はポーターを伴わなければ進入禁止だ。
一階だけならば、ほぼモンスターは現れないので観光客だけでの探索も可能とされていた。
代わりにギルドの雇われ探索者が安全のために巡回している。
通路には、ところどころに赤や青、緑のペンキで矢印や行き先、到着までの所要時間が書いてあった。
どの順路であれ、最悪、矢印を逆に辿れば地上へ帰れる。
通路内には、常時、明かりが点いているので矢印を見逃す心配はなかった。
明らかに観光客ではない本格的な探索者装備を身に着けた者たちにも遭遇する。
昨日絡んできた男のようなミスリルスライム狙いの探索者なのだろう。
本職の探索者であればポーターなしでも地下二階以深へ降りる行為が許されていた。
運良くミスリルスライムに遭遇して倒せれば経験値を大量に取得できた。
まず、逃げられるに決まっていたが。
「随分、混んでるんだな」
「ミスリルスライムが出るようになってからは大盛況だ」
「いつから?」
「一年ぐらい前だな。でも、誰も倒せはしねぇだよ。おらだって倒せたのは二回だけだ」
俺は驚いた。
ミスリルスライムは遭遇した瞬間には逃げ出してしまうから、そもそも攻撃がまずできない。
運良く相手が気付いていない状態で出くわすか、相手の逃げるルートを予想して何もない空間に一撃を入れなければ、攻撃を当てることはできなかった。
しかも当たっても堅い。
一撃で仕留められなければ、やはり逃げられる。
そのうえ、呪文は、まったく効かない。
偶然ではなく狙ってミスリルスライムに攻撃を当てたのだとしたら、
「相手が気づいてなかったのか?」
「んにゃ。おら、先回りしてこの棒を振っただよ」
「やるなぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます