第7話 ポーター
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「お客さん、ゆうべはお楽しみでしたね」
ギルドのカウンターへ行くと昨日の受付嬢が品のない下ネタをぶっこんできた。
これくらいの会話が当たり前にできなければギルドの受付嬢なんか務まらない。
「そんな色っぽい話はねぇよ」
俺は怒ったような声を出した。
「
「誰がポチだ」
「あはははは」
受付嬢は、ひとしきり笑ってから、真顔になって深々と俺に頭を下げた。
「ありがとうございます」
「なんだよ、急に」と、俺は思わず構えてしまう。
「
急に重たい話だ。
少なくともこの受付嬢には、
「まあ、寝心地は悪くなかったよ。飯は勘弁だが」
久しぶりに人肌のぬくもりを味わった。
「あの
俺は思っていた疑問を口にした。
「
思ったとおりだ。
「ひどい傷だらけだったぞ」
俺は
受付嬢は悲しそうな顔をした。
「あたしみたいに親がギルド職員の子は小さい頃、ギルドの仕事の邪魔にならないよう、日中、一つ所に集められて育てられるんです」
受付嬢は語り出した。
「
「まるで犬の躾けだな」
傷の上に次の傷が重なっていく土台となった元の傷はそうしてできたのだ。
「段々あたしたちも距離を置くようになって話さなくなり。もともとポチは子供たちみんなで飼っていた犬でしたけれど、
「犬には偏見がないからな。だからポチだけが話し相手か」
受付嬢は頷いた。
「そのうち、お客さんの
俺は暗い気持ちになった。
ポチは、結局、戻らなかったのだ。
それ以降、
「今なら自由意思で、ここを出て行けるだろ」
言ってから俺は不可能であると気がついた。
「無理だな。基本的な生活能力がない」
逆らわないよう、奴隷には余計な知恵をつけるな、の鉄則だ。
何も知らない、
盗みの果てに捕らわれるか討たれる未来が容易に見えた。
「
そうだな、と、俺は頷いた。
「ん? 何で俺にそんな話をする?」
「べつに」
受付嬢は、にやりとした。
「ただ、誰かに知ってもらいたいと思っただけですよ。ポチさん、ヒューマン以外の人種に偏見がなさそうだから」
「俺は犬じゃない」
「そうでしたっけ?」
「それにポチじゃない。ん?」
今の話の内容が引っかかった。
「もしかして頼んでいた
「今、お呼びしますね」
受付嬢は、にこやかに席を立つと奥の扉を開け事務室の中へ消えた。
すぐ
「ポチ~」
やはり用意されていた
「仕組んだな! 俺が
「何のことでしょう?」
受付嬢は、全く心当たりがないというセリフの割にニヤニヤしていた。
「まさか、ご縁を作らなくても、ご縁ができたのには驚きました。」
俺が、馬小屋に泊めてくれ、と言った際のことだろう。仕組んだのではなく、そちらは本当の偶然だ。
「今日のお客さんはポチだっただかあ」
俺は、
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