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しばらく経ってから真魚くんが頬を火照らせながら私から離れる。
「あの……ちょっとのぼせちゃったから……お風呂出たい」
「本当だ。顔が真っ赤」
「煮魚になっちゃう。人間になるから、ちょっと浴室から出てもらってもいい? あの……このまま戻ると全裸だから」
「………………ごめん。腰が抜けて立てない。あの、後ろ向いてるからその間に服を……」
私は身体を引きずるようにして真魚くんに背中を向ける。お湯の音と衣擦れの音が羞恥心を煽るし、腰を抜かしたまま動けない自分が非常に情けない。だけどなにか音がしている間は真魚くんがそばにいることを感じて安心できた。安心したら、また泣けてきた。
気分が落ちついて、私の腰も徐々に回復して動けるようになった。とりあえず髪の毛をひとつにまとめてお茶の用意をする。おやつは冷蔵庫に置いてあったチョコレートをいくつか添えた。
真魚くんは包み紙を開いて、アーモンド入りのチョコをぽいっと口に放るとブラックコーヒーでそれを流しこむ。こくんと真魚くんの喉が動くのを見て思わず溜息をついた。
あの日のプールの授業のように私たちはふたり横に並んでいる。あのときはお尻ひとつ分の距離があったけど今はその距離さえ惜しくて身体がくっつきそうなくらいに近い。それでも遠くに感じて真魚くんと私は互いに手を握りあっている。手のひらがチョコレートみたいに溶けてくっついてしまいそうだ。
「……人間の女の子を見たのは、初めてだったんだ」
真魚くんはぽつりと言った。そしていつもより青みが強い瞳を私に向ける。
海の底で人魚として生まれた真魚くんは、玲さんや他の人魚たちと毎日泳いだり、海の底にある学校に行ったりして過ごしていた。昼間は人間に見つかるので、夕方から夜にかけて空を見あげるのが真魚くんの楽しみだったそうだ。
いつものように夕方頃に真魚くんのお気に入りの場所へ向かっていたら、自分たちとは明らかに違う生き物が海の底に沈んでいくところに遭遇した。学校で習ったことがある、人間だとすぐにわかった。しかも雌──女の子だと。
その人間は息をしていなかったし、人間はえら呼吸をしないと知っていたので、真魚くんはその子を急いで海面上へ運んだ。
声をかけてもその女の子は気を失っていて、肺の中に水が入っているようだった。どうにか胸や背中を叩いたりして息を吹き返させたが、女の子の意識はおぼろげだった。
「……やばいなと思って、急いで岩場に運んだよ。俺の背中の上でその子が『もう死んじゃえばいい』なんて言うもんだから、放っといてやろうかと思った。でも、死にたいって顔してないんだ。なにがこの子にそんなことを言わせるんだろうって思ったよ」
「……それって……」
真魚くんの手に力が込められる。それに反応して私も真魚くんの手を握り返した。
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