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理太郎くんは駅の前まで送ってくれて、別れ際にすっと右手を差し出した。私がその手を握ると、ぐいっと引き寄せられて気づけば理太郎くんの胸の中にいた。
あんなに頼りがいがあった厚い胸が、なんだか硬いだけに思えてしまうのは私が変わったせいだろうか。理太郎くん、と名前を呼んでゆっくりと離れる。
理太郎くんはしばらく私の顔をじっと見ていたけど、溜息をひとつついてから私から一歩引く。額を掻きながら、口元をわずかに歪ませるような笑い方をした。
「悪い、俺酔っぱらってる。酔うと人恋しくなるんだよな」
「はは、ちょっとわかる気がする」
「うそだ、瞳は全然わかってねえだろ。そもそもあんまり飲まないじゃん」
「……ふふ、ごめん。じゃあ、私明日早いから。またね」
理太郎くんはゆっくりと手を振っている。大きくてつりあがった男らしい目が、酔っぱらっているのか少しだけ優しく見えた。
今日、理太郎くんはビールを中ジョッキで三杯くらいしか飲んでいないのに。昔はそれくらい飲んでも顔色ひとつ変わらなかったけど、やっぱり彼も歳を取っているのだろう。
髪の毛にはわずかに理太郎くんのタバコの匂いが残っていた。電車に揺られるたびにそれが香ってきたけども、電車を降りて自宅に到着する頃には夜風に飛ばされた。
翌日、いつものように出勤するとうかぶせの入口には貼り紙がしてあり、しばらく休業しますと書いてあった。文字の端々が乱暴な抜き方をされていて、正直言うと汚い字だったので、真魚くんのものではないとわかる。
それに休業なんて真魚くんから聞いていない。昨日は定休日で、一昨日は普通に出勤していた。真魚くんの様子も普段と変わらなかったはずなのに。
もしかしてまた体調を崩してしまったのではないだろうか。私はすぐに真魚くんに電話をかけたけども、繋がらない。ツーツーと無機質な音が響くだけだ。LINEを送ったけども、いっこうに既読にもならない。
真魚くんは気分で休業にすることはあるけども、連絡もなくこんなことをする人ではない。ひと言、店を閉めることを話してくれるのに。
ふと、玲さんならなにか聞いているのかもしれないと思い立ち電話をかけてみるけど繋がらない。
いてもたってもいられなくなって、私はとりあえずパライソに向かうことにした。
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