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──呆れられちゃったかな……。
なんかごめん、と声をかけたら真魚くんはおもむろにスマートフォンに手を伸ばす。人差し指を画面上で跳ねさせると、LINEが届いた。
『気づくよ』『どこに沈んだって』
真魚くんはスマートフォンから私へ視線を移す。目元と頬がほんのりと赤くなっているのがなんだか可愛い。
真魚くんの指先が私の手に触れて、指の間へ滑っていく。するりと絡んだ指先がくすぐったくて熱かった。言葉どおり、どんなに深い場所へ沈んだとしてもちゃんと引き上げてくれそうな力強さと優しさが、確かに存在する。
真魚くんとこんな手の繋ぎ方をしたのは初めてなのに、なんだか昔からある優しさに触れたような懐かしさがあった。ほっとして目の端っこがじわりと熱くなる。
『それで』『元彼さんと』『ヨリを戻すの?』
「あー……うん、それなんだけど……。断ろうかと思ってるんだ」
『どうして?』『いい元彼さんなんでしょ』
「彼は私を幸せにしてくれるって言ったけど……私の幸せは私で見つけたいかなって。甘えたままの私でいたくないというか。それにうかぶせで働いてるときの私が、今は一番好きだから。婚期遅れそうだけど……」
真魚くんに一番伝えたかったことを伝えられた。
真魚くんはいつも甘えてばかりの私に気づいてくれた。怯えてばかりのどうしようもない私を、真魚くんはいつだって助けてくれる。
真魚くんとうかぶせのおかげで、ほんの少し広い世界へ飛び出した。だから私は、その優しさに応えたいとわりと本気で願っている。
『うれしい』『婚期遅れたら店主として責任取ります』
「あはは、ありがとう。まあ、自分の責任は自分で取るから大丈夫。とりあえず、まだもう少しうかぶせで働かせてください」
真魚くんは姿勢を正すとそのまま三つ指をつき、額を床に近づける。私も思わず同じ姿勢になり、なにかの儀式のように私たちは頭を下げあう。なにやってるんだろうね、と笑えば真魚くんもはにかんでいた。
『ねえ瞳ちゃん』『今度俺の話も聞いてほしい』
「ん? もちろん。なんなら今でも」
『うん』『ちょっとだけ心の準備をする』『俺は臆病者だから』『でも必ず』
真魚くんがなにを話そうとしているのかは私にはまったく予想がつかない。だけど、ものすごく大切な話なのだろう。真魚くんの深い青色の瞳を見ていたら、言葉を交わさずとも伝わってくる。
薄い水の膜に覆われた真魚くんの瞳はほんの少しだけ揺れていた。静かな海の、さざ波のように。
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