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 いきなりなんの話だと思われたかもしれない。私はこういう大切な話をするときの切りこみがとにかく下手だ。真魚くんは三回鼻をかんだ後でスマートフォンに手を伸ばした。


「それをずっと悩んでたの。あのね、彼は真面目で仕事熱心でいい人で」

『なんか俺へのあてつけみたい』

「ん……? いやいや、そういうつもりではなく……ふふっ」

『ならいい』『続けてください』


 今、ちょっと笑ったらなんだか気が楽になった。これも真魚くんの気遣い……いや、今のはただの本音だ。私は軽く息を吸って真魚くんに話したいことを心の中でまとめる。


「彼のこと尊敬してたのに、なんで私はあのとき彼と別れたんだろうってずっと考えてたんだ」

『うん』『それで答えは出た?』

「うん……私は彼に甘えてて、それに気づかないふりをしてたの。自分で動こうとしないくせに、自分のさびしさには気づいてほしいって思うだけだった。そんな自分が嫌いなのに変えられなくて、彼といるほどそれを感じて、疲れて、彼から離れたんだって」


 ただのすれ違い、なんていう言葉でかっこつけては自分の弱さから目を逸らし続けた。さびしい自分がとても恥ずかしくてごまかし続けていたくせに、結局は勝手にすり減った。言葉にすると自分の至らなさを鏡で見ている気分になった。


 真魚くんは目を伏せたままスマートフォンに指を滑らせるけど、私のスマートフォンはいっこうに震えない。いつもなら速いレスがあるのに、真魚くんは指先を絡めたりこめかみの部分を押さえたりして言葉に迷っていた。


「周りが私のことに気づいてくれたらって願うだけだったんだよ。他人任せっていうか。頑張ってるつもりで、本当はひとつも頑張ってなんかなくて」


 でも、願うだけではだめだ。もう、このままではいたくない。臆病者なりにちゃんと二本の足で生きたい。焦がれるだけでは届かないし、暗い海底から抜けだすのは自分の力に頼るほかない。


「今日、真魚くんと過ごしてわかったんだ。私は彼とこういうふうに過ごしたかったんだろうって。こういう幸せを分けあいたかったって。それを気づいてほしくて、だけど知られるのも怖くて。すごく、甘えてたと思うんだ」


 この歳になってこんな青くさいことを言っている自分が恥ずかしくて、このまま燃えてしまいそうだ。それでも言葉にしておきたい衝動が抑えられなかった。真魚くんがどんな気持ちで受け取るかなんて考えてもいないし、今の私はとてつもなく面倒で、わけがわからない女だろう。


 それでも真魚くんに伝えたかった。真魚くんが沈んでいきそうな私に気づいてくれなかったら、私はきっとずっと拗ねて引きこもって、甘えたままの私だっただろうから。


「真魚くん。すぐ沈んじゃうような、どうしようもない私を救ってくれてありがとうございます……ってことが、言いたかったの」

「………………」


 真魚くんは目をごしごしとこすった。そのせいか目がほんの少し赤くなってしまっている。ぱくぱくと口を動かして、真魚くんはそのまま自分の膝の中に顔を埋め、はあーと大きな息を吐く。

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