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 理太郎くんのことだけじゃない。私はもうずっと昔からそうだ。自分のことが嫌いで自分を隠すことですべてがうまく回ると思いこんだ。本当は誰かに気づいてほしいのに、ただ怯えていただけ。いつか誰かが気づいてくれるだろうって甘えていただけ。


「……真魚くん、今日はありがとう。本当に楽しかった」

「………………」


 真魚くんは前を見たままで、こっくりと頷く。薄暗い車内の中でもその目元だけで笑っているのがわかる。


「……気づいてくれてありがとう」


 私は真魚くんにもだいぶ甘えてしまった。私が沈んでいきそうなときに、真魚くんに気づいてもらえたとことが本当は泣きそうなくらい嬉しかった。私はここにいるって、もっと気づいてほしくなる。

 だけど、たぶん、それじゃあ私は──。



 夕飯を食べてから、真魚くんはまっすぐに自宅まで送り届けてくれた。なんとなくまだ離れたくなくて、だめもとでお茶でもと言ってみたら、真魚くんは嬉しそうについてきた。

 人を家にあげるのは久しぶりだ。なんなら理太郎くんが最後にうちにきたとき以来かもしれない。


「ごめん、散らかってるけど」


 真魚くんは洗いたての犬みたいに首を横に振った。

 ケトルでお湯を沸かして、今日フリーマーケットで買った紅茶を淹れ、うかぶせで買った食器に玲さんのラスクとクッキーを乗せてテーブルへ運ぶ。


 紅茶はオレンジがメインのフレーバードティーだ。優しい香りが部屋の中に満ちる。マグカップに注いだ紅茶を、真魚くんがふうふうと冷ましてからひと口含む。


 ほう、と安心したような息を吐いてから真魚くんはスマートフォンを操作する。私もすぐにスマートフォンを手に取ると、真魚くんからLINEが入った。 


『どうしたの?』

「……なんかまだ、喋り足りない気がして。毎日喋ってるのに、変だよね」

『ううん』『変じゃない』


 真魚くんはクッキーを口へ運びながら微笑を浮かべる。おいしい、と口を動かしていた。あまりに美味しそうに食べるので私もラスクを一枚口にして、ブラウンシュガーの香ばしさを味わう。


『なにか相談でもある?』『もしかして』

「……うん。ちょっと、聞いてほしい」

『うん』『聞くよ』


 真魚くんはティッシュで手を拭くと左手を後ろについて、右手でカップを持ち、とてもリラックスした体勢を取る。


 私は真魚くんに今の気持ちを聞いてほしい。とても自分だけで抱えられそうにないし、誰かに話すことで後戻りしないようにしておきたい。でもどうやって切りだすべきか──ここは時系列に……。


「ええっと、真魚くん……その、私……実は元彼から結婚を前提にヨリを戻そうって言われてまして」


 真魚くんはカップを持ったままむせた。苦しそうに咳きこみ、ティッシュで鼻水を拭っている。

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