第3話


「ねぇ、あたし達て、その、のかな?」


 彼と知り合って二年目の春。あたしは思い切って自分の想いを吐き出すように言い淀みながら、身体を重ねた熱の繋がりを解いたばかりの彼に聞いてみた。


 彼は二、三度の瞬きをし、ベッドの上のティッシュを抜き取りながら顔を笑わせて、予想通りの言葉を吐き出した。


「いや、それは違うでしょ?」

「……そう、だよね」


 わかっていた。彼に付き合っているという感覚が無いのはわかっていた。彼にとって、あたしは相性の良い友達セフレに過ぎないんだって。


「まぁ、ある意味、身体はのかも?」

「そういうの、今はいいよ」


 性欲を満たした直後のデリカシーの無い彼にちょっと耐えられなくて身体にシーツを撒いて寝転がった。繋がったばかりの熱の燻りが寂しくて切ない。


「ごめん、なにか怒らしちゃったね。でも、俺はこうゆう人間だって──」

「──わかってるよ。大丈夫、あたしだって理解わかってるから、あなたとは友達だって」


 そう、理解してる。彼は心から深く一緒にいたいっていうパートナーは作らない。あたしの知らない相性の良い友達が何人もいるんだろうなって、わかってるよ。あなたの優しさはあたしが独り占めできるもんじゃないんだって。


「もう少し──」

「──ゴム、もう無いよ。あたしもリスク、減らしたいから、今日はやめよ」

「ラブミルフィーユ、もうちょっと買っておけばよかったな」


 彼はお菓子のパッケージみたいなコンドームの空箱を振りながらベッドを降りた。

 また、身体が切なくなった。彼の熱が遠ざかった気がして、涙が滲んだ。


「俺、明日もフリーだから、久しぶりに映画でも観に行こうか。観たがってたアニメのやつまだやってるよね?」


 また、彼が気を使った優しさを見せる。フリーか、顔も知らない他の子よりも、あたしを優先してくれるのかな。明日は彼をずっと自由フリーにできるのかな。


「うん、そうだね」


 シーツで滲んだ涙を拭ってから、顔を向けると彼は、あたしのプレゼントしたボールパークポーチの付いたボクサーパンツを履いてペットボトルの水を飲んでいた。


「どうしたの?」

「ん、それ気に入ってくれてるんだね」

「あぁ、すごく納まりいいからね。下着はもうこれ以外は考えられない相棒パートナーて感じ。Saxxサックスのホームページすぐに漁っちゃったよ」


 これ以外は考えられない「パートナー」か。あたしのプレゼントでそう言って貰えるのは嬉しいて思っちゃう。他の子にはなんて説明してるか知らないけど、その下着を履いている間はあなたを束縛できてるって優越感で、胸がいっぱいになる。


「付き合ってくれる? 買い物の方、映画の後なんだけど」

「うん、いいよ。何を買うの?」

「……明日まで、秘密」


 あたしはもう、彼から離れてゆくって選択肢は無い。身体が沈みきった「沼」からはもう抜け出せないんだ。だから、あなたという沼にずっと浸かるためにあたし──。


「あ、よかった。機嫌直ったね。可愛いんだから笑ったほうがいいよ」


 ……うん── そうだよね

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彼という「沼」に もりくぼの小隊 @rasu-toru

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