第38話 アメリアの異母兄 クラウスの肖像

 オスカーが王家の城を攻略するために、最初に訪れた相手はアメリアの兄、クラウスだった。


 クラウス・フォン・マイヤーは、生みの母を義母のせいで失ったと、ずっと思い続けてきた男だった。

 クラウスの父オットーは野心家で、平民の出身だったが、才覚もあり美男子だった。そして貴族の娘で世間知らずだったクラスの母と出会った時、恋仲となり、跡取り息子に恵れなかったマイヤー家に婿入りしたのだった。

 しかしそれで満足する男ではなかった。名門貴族の称号を得ると、今度は王家へも出入りするようになり、最終的には王家の末娘と恋仲になった。そして結婚前に王家の末娘は、アメリアを身もごったのだった。その時、クラウスの父オットーは平然とクラウスの母を捨て、王家の末娘と結婚することを選んだ。クラウスの父オットーはクラウスの母が心の病を発症したことにして、無理矢理、遠く離れた治療院へ送った。そして心に病により自殺したことにして、殺したのだった。

 まだ幼かったクラウスは、新しい義母には当然なじめなかった。そして義母の産んだ妹アメリアも徹底的に嫌った。

 オスカーの家でルカを見かけたとき、クラウスはルカの美しさに心を奪われたのだが、それ以上にクラウスの心を捕らえたのは、そのはにかんだように微笑む、ルカの優しい笑顔だった。その笑顔にクラウスは亡き母の面影を見た。

 母を失ってから、ずっと孤独に生きてきたクラウスは、なぜかルカが母の生まれ変わりのように思えたのだった。

 だからフォン・ブラウン家から、結婚の申し出を断られても、あきらめ切れず、あらゆる策略をこらし、ルカと結婚したのだった。そしてクラウスが望んだことは、何から何まで亡き母と生き写しの花嫁だった。

 クラウスは何から何まで、母と同じようになることをルカに望んだ。そしてルカを徹底的に自分の望む妻に変えようとした。それは他の者から見ると、平民出身の妻を、躾と云う名の下に支配し、いたぶっているよにしか見えなかった。クラウスは暴力的な父のもとで育ったこともあり、それは欲望と暴力がない交ぜとなった、歪んだ愛の形を取った。しかしマイヤー家には、だれもクラウスの暴力を止めようとするものはいなかったのだ。

 アメリアは自分の代わりに兄にいじめられているルカを、遠くから、いつもそれは楽しげに見ていた。アメリアは自分より美しい女性は大嫌いだったのだ。不幸なことに、女性に変性したルカは誰よりも美しかった。


 オスカーは、どちらかというと陰険な策士家であるクラウスを、学生時代から避けていたのだが、今回ばかりはあらゆる感情を捨て、クラウスの持つ人脈を利用することにした。







 

 

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