第6話 オスカーとジェイド ④
総統はその夜、珍しく、夜の街へ出かけるとは言わなかった。
予期せぬ少年の抵抗に出会い負った傷は、深くは無かったが、初めての本格的な抵抗に総統は途惑い驚いていた。
そして昨夜、総統を襲った暴徒の群れにも、初めて恐怖を感じていた。
そのような訳で、オスカーはその夜、珍しく屋敷へ帰ることができた。
少年のことが気になり、オスカーは少年が休む客間へ、足を運んだ。
少年はオスカーの顔を見るなり、オスカーに駆け寄り、オスカーの胸にしがみつくと泣き出した。
「お前の名を、まだ聞いていなかったな。
名前は、なんと言う?」
「ジェイドです。僕の目の色を見て、翡翠のような色をしていると、恩人夫妻が、つけてくれました」
そう言われて初めて少年の瞳の色が、この惑星では珍しい緑色であることに、オスカーは気づいた。
「本当の親ではないのですが、肉親と離れ、ひとり森で泣いていた僕を見つけて、育ててくれました」
何か事情がありそうな少年だと、オスカーは思った。
平民の身なりには似つかわしくない、驚くほどの気品があった。
少年は長い間、ひとりで色々なことに耐えていたのか、一度泣き出すと、
ひとしきりオスカーの胸で泣いていた。
「すみません。兄に会えると思って楽しみしていたのに、悔しくて涙が止まらないんです」
オスカーは少年の目に浮かぶ涙を見て、奇妙で、不思議な感情に襲われた。
オスカーはエルフィンに惹かれていたのだが、それはエルフィンが未分化で、エルフィンの中に眠る女性に恋をしているのだと、思っていた。
しかし少年の涙にオスカーは、心が乱れるのを感じていた。
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