第14話 嵐の前の……パート2
金曜日。
すでに23時を越えていたが、真奈美は自分の机で何冊かのM&A専門書と睨めっこをしていた。
「遅い時間まで頑張ってるね。その顔は……何か悩みごと?」
打ち合わせから帰ってきた山田チーフが真奈美に声をかける。
「はい。実は山田チーフに教わりたいことがあるんです」
「おお、いいよ。じゃ、食事、まだなら食べながら話そうか」
こうして、2人は遅くまで開いている路地裏の隠れ家的なイタリアンバルで乾杯をしていた。
暖色系の照明が控えめに灯る。
木目調のテーブルと椅子が美しくレイアウトされている。
壁にはアンティークな絵画が掛かっており、落ち着いた雰囲気に包まれている。
二人の目の前には、生ハムやチーズの盛り合わせ、トマトソースのパスタ、そしてシンプルで美味しいピザが並んでいた。
「山田チーフ……夜遅くにこんなに頼んじゃって食べられるんですか?」
「酒井さんならこれくらい余裕でしょ」
「……私ならって……」
「あれ?お腹空いていないんだっけ?」
どうやら山田にデリカシーを求めても無駄なようだ。
それに、実際、このくらいぺろっと食べ切っておかわりできるくらいお腹が空いている。
真奈美は苦笑しながらパスタを取り分け始めた。
「ほら、やっぱりお腹空いているんでしょ」
(流石に2年も一緒に仕事しているから、完全にバレちゃってるわね)
真奈美は赤面しながら山田にパスタを差し出すと、スパークリングを一気に流し込む。
山田は真奈美のグラスにおかわりを注ぐと、空になったボトルを脇に置き、当たり前のように赤ワインのボトルを追加注文する。
「山田チーフ?あの私、今日は相談があったんですけど……」
いくらなんでもこれ以上アルコールが入ったら相談どころではなくなる。
真奈美は慌てて山田を制するが……
「あれ?今日は飲まないの?このワインは、このお店のハウスワイン。安いけど意外と重めのしっかりした赤だよ」
それを聞いて、真奈美はごくりと唾を飲み込んだ。
山田はニコニコしながら真奈美のグラスに赤ワインを注ぐ。
(もう……ま、いっか。相談は、週明けにお願いしよう)
こうして、真奈美はほろ酔いの世界に踏み込んでいくのだった。
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