第三章 ソーシング(ロングリスト前編)

第15話 専門書ではわからない

 早速月曜日の朝、真奈美は山田を打ち合わせコーナーに呼んだ。


「何か悩んでいるんだっけ?」

「はい、先日山根本部長にもM&A実施方針を確認してもらって、これからいざターゲット候補を探したいと考えているのですが……」


 真奈美は先日の打ち合わせで確定した、パワーロボティクス事業本部のM&A実施方針を山田に見せた。


「この先の進め方がわからないんです。専門書にも具体的なことが書いてなくて……」


 山田は真奈美が開いて見せたページを眺める。

 確かに、M&Aの実施方針や定性的・定量的目標を定めて、ターゲット候補企業を選定していくと書かれている。

 そして、選定された企業一覧をリスト化していく項目は詳しく書かれているが……


「……ターゲット候補企業の選定って、具体的に何をしたらいいのか、全然イメージが湧かなくて……」

「なるほどね。そりゃ、専門書には現場実務は書いてないよね」


 山田はにやりと不気味な笑みを浮かべた。


「じゃあクイズ。そもそも実施方針に沿った企業に詳しい人は誰でしょう?」

「ひ、ひとですか!?」


 いきなりのクイズに真奈美は慌てた。


「え、えっと……山田チーフ?」

「ぶー!ぼくが建設市場の企業に詳しいわけないじゃん」


 山田は爆笑している。

 真奈美があわあわしているのが面白くて仕方がないらしい。


(……忘れかけていたわ。この人、にこちゃんドSだったわね)


 真奈美は深呼吸すると考えを整理した。


「……やはり事業本部が一番詳しいかしら。でも、うちの会社は製造現場向けかB2Cがメインだから建設に詳しい人なんて……」


 山田がこれ見よがしに腕時計で時間をチェックする。


(もう!いけず!)


 真奈美は心の中で、どこで覚えたか関西弁で悪態をつく。


「……ひょっとして、社外に聞いてみる、とか?」

「おお。悪くないね。具体的には?」


 ニコニコしながら追い込みにかかる山田。

 冷汗を流し始める真奈美。


「こ、コンサル?」

「いいけど、高いよ?」

「……じゃあ、投資銀行とか……」

「うん、それは可能性として十分ありだね。あとは、メインバンクかな」


 やっと質問攻めから解放された真奈美だったが、山田の目には怪しい光が灯り続けている。

 まだ油断はできなかった。

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