第12話 動機不純

 真奈美は、翌日も朝から中央研究所に寄生するパワーロボティクス事業本部に足を運んでいた。

 昨日の山根本部長のビジョンを受けて、実務メンバーと具体的な進め方の相談をするための、澤田企画部長と内村係長との打ち合わせである。


「山根さん、いつも夢は大きいんだよね」

「はい、すごい熱意を受け取りました」

「ははは。で、ここからは急に現実に戻って申し訳ないんだけど……」


 澤田は頭をかきながら本題に入った。


「中期計画では売上500億円を求められていてね」

「500ですか!?」


 確か、当本部の年間売上は100億円にも至っていなかったはずだ。


(それを3年で500億とは……そりゃ、非連続成長も真面目に考えないといけなくなるわよね)


 澤田は真奈実の表情から、真奈美の心の声を読み取った様に答える。


「正直、今の延長線上では2倍が関の山だ。

 だから買収で300億円。動機不純だが売り上げが欲しい」


 澤田は申し訳なさそうに笑う。

 真奈美もつられて苦笑した。


「いえ、本音で教えていただいた方がいいんです。

 夢も大事ですが、足元で突きつけられている数字的課題も理解しておかないと、

 M&A戦略は立てられませんから……」


 大企業の中期計画なんてこんなものだ。

 事業努力の積み上げではなく、上位方針で数字を決められる。

 その中身を具体化させる義務は事業本部に押し付けられるのだ。


(にしても、500億も押し付けるとはねぇ……)


 そのような強気の数字を彼らに押し付けた張本人は、真奈美たちMA推進部と同じ経営企画本部の中核部隊、経営企画部だった。

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