第11話 ビジョン
真奈美より若干若い内村係長の説明によるパワーロボティクス本部の概要は以下の通りだった。
・製造現場向けが主力
・製造、営業、販売は産業機械事業本部に委託
・当本部は現時点では設計開発のみ
山根は苦笑しながら付け加える。
「まだ中研所属時代と大して変わらない体制なんですよ」
真奈美も苦笑いを返しながら質問した。
「産業機械事業本部には利益シェアしているんですか?」
「いやー、そんなに利益出てないから。実費支払うことで勘弁してもらってるんだ」
業務委託を受けている産業機械事業本部は白馬機工の主力事業本部。
規模も大きく体制もしっかりしているので、そのリソースを借りることでなんとか当事業を成立させている。
逆にいえば、当本部はまだまだ自力で事業できる規模には育っていないということだった。
こうして二人の質疑応答は続いていく。
やがて話題は将来ビジョンへと移っていった。
「M&Aの方針を決めるには、事業の将来ビジョンに沿う必要があります」
「どのくらいの将来が必要ですか?」
「5年後、できれば10年後のビジョン。それを実現するために、今どのようなM&Aが必要かを戦略立てていくことになります」
「なるほど、中々難しい話だね」
山根は顎を掻きながら宙を見る。
中期計画ですら3年計画だ。
その先のこととなると、会社も事業本部も議論を重ねたことはない。
だが、山根はぽつりぽつりと自身の考えを語り始めた。
「まだ個人的イメージでしかないんだけどね……」
「はい」
「将来は、やはり製造現場向けだけでなく、もっと幅広い市場に向けて事業を広げたいとは思うんだ」
「幅広い市場ですか」
「そう。例えば、医療や介護、建設、災害現場、極地、軍事……」
山根の目がキラキラと輝き始めた。
「そして宇宙。そう、将来は宇宙へ広げたい。でもそのためには……」
山根は嬉しそうに語り続けた。
真奈美は無言のまま笑顔で聴いていた。
(やっぱり……技術の人たちって、夢を語りだすと止まらないのよね……)
真奈美は長期戦を覚悟する。
山根の独壇場は簡単に終わる気配は感じさせなかった。
……………………………………………
(補足解説:飛ばしてもOKです)
ビジョンとは、その会社や事業が究極的になりたい姿、将来あるべき姿そのものです。
定性的な理念や使命として策定されることが多いですね。
ただし、今回はM&A戦略へと結びつける必要があるので、もう少し具体化していく必要があります。
できれば、定量的な目標数値も定義できるといいですね。
売上○○を達成する……
シェア○○%を獲得する……
新規ビジネスカテゴリーにシフト率○○%……
のように。
そして、そのビジョンと現状とにはギャップがあります。
そのギャップをどのようにして埋めるのか。
自社経営資源を使って成長する(オーガニック成長)で辿り着ける部分と、非連続な成長が必要な部分(インオーガニック成長)とを組み合わせてビジョンを達成しにいく必要があります。
後者を実現できるようなM&A戦略を構築することが重要です。
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