第10話 まずは自分を知ること

 パワーロボティクス事業本部のフロアに入ると、真奈美は早速本部長室に案内された。


「わざわざ相模原まできていただきありがとうございます」


 そこにいたのは、本部長の山根。

 そして企画部長の澤田、その横にもう一人若手が座っている。


「とんでもないです。私、中央研究所に来るのは新入社員以来初めてでして……」

「そうですか。では、また後ほど中研の見学コースでも見ていってください」


 山根はにこやかに真奈美を席に座るよう促した。


 勿論、山根はもともと中研(中央研究所のことを本人たちは中研と略す)の開発責任者。

 まだ若くおそらく四十代後半。

 事業本部化に伴い事業本部長に抜擢された、白馬機工期待の星だ。


「ありがとうございます。今回、落合CTOからも買収候補を探すお手伝いをするように仰せつかっております。よろしくお願い致します」

「そうなんですよ。私たちもなんとかしなきゃと思いつつどう進めればいいか分からなくて、落合さんに相談したんですよ」


 山根は落合をさん付けで呼んだ。

 本社では、さん付けは課長までという暗黙のルールが成り立っている。

 研究所文化は本社とは違う風が吹いているようだ。


(なんか、居心地いいな……)


 真奈美はホッとしながら話を続けた。


「我々もできる限り、みなさんと一緒に候補探しを頑張ろうと思います。そこでまずはパワーロボティクス事業本部の概要と将来ビジョンを教えていただきたいと思いまして」


 真奈美は、ここに乗り込むに先立って、企画部長の澤田にリクエストを投げていた。


 ・事業概要

 ・組織、拠点、資産及び知的財産

 ・バリューチェーン

 ・財務状況

 ・将来計画・ビジョン


(まるで他社を買収する時の初期的情報開示要求みたいね)


 とはいえ、自分を知らなければ買収対象の議論などできはしない。

 まずは事業本部の状況と考えをしっかり理解すること。

 これは、山田からも念押しされたことだった。


「はい、準備してます。じゃあ、まずはそこから説明しましょう。内村くん、例の資料を出して」

「はい!」


 元気に声をあげて、プロジェクターに資料を写し始めたのは、澤田の横に座っていた若手、企画部の内村係長だった。

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