第8話 嵐の前の……パート1

 その日の夜、真奈美は親友かつ同僚である法務部の高橋小巻と、いつもの様に飲みにでていた。

 乾杯するや否や、小巻が興味津々、瞳ギラギラで質問してくる。


「で、落合CTOに呼ばれたんでしょ?」

「ちょ……なんで知ってるのよ?」

「ふっふっふ。私の情報網を舐めないでよね」

「うーん……」


 真奈美は腕を組む。

 真奈美が落合CTOと面談したことを知っている人は限られている。


 思い当たるとしたら……


「中野さんから聞いたの?」

「ピンポーン!あ、でも中野ちゃんにはバラしたの内緒ね」


 中野は、真奈美や小巻にとっては可愛い後輩。

 毎週金曜日夜に定時退社し合コンに行くことを最優先しているいまどきのギャルなのだが、MA推進部の雑務を一手に引き受けていて、部内外のスケジュール調整なども一手に担っている実力者だ。


 当然秘書室とも密接なパイプを持っている。

 真奈美が朝一に落合CTOに呼び出されたことを知っていてもおかしくはない。


「……中野さんからどうやってそのネタ入手したのよ?」


 すると、小巻はバツが悪そうに頭をかいた。


「まあ、その、ね。中野ちゃんが知りたがっていた情報と交換条件で……」

「何よ、それ」

「それは〜、最近彼氏ができて化粧やオシャレにうつつを抜かしているM子ちゃんの彼氏馴れ初め情報……とかかな?」


 ……


 一瞬の間をおいた後、真奈美の顔面は茹蛸のように赤く染まった。


「ちょっと!それ、私のこと?しゃべったの?」

「いやー、ほのめかしただけだよ?」

「しゃべってんじゃん!てか、うつつを抜かしているM子って何よ。私、そんなつもりないわよ」

「えー?化粧が日に日に上手くなってるって社内でも話題だよ?」

「……そ、そんなことないわよ。てか、私の個人情報じゃん!法務部なんだからコンプライアンスしっかりしなさいよ」

「何言ってるのよ。私が紹介したんだから、個人情報じゃなくて公知情報よ」

「……む、むぅー……」


 ドS性格かつ法律事務所から出向している現役弁護士の小巻に、屁理屈合戦で勝てるわけがない。


「……もう!!今日はベロンベロンに酔っ払うまで帰さないんだからね!」


 こうして、二人の夜はまだまだ続いていくのであった。

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