第3話 非連続成長
「呼び出してすまないね」
真奈美が月曜日の朝8時きっかりにCTO室に入ると、落合CTOはすでに執務机ではなく、打ち合わせテーブルの前のソファに座っていた。
「いえ、とんでもございません。いつもご指導ご鞭撻をいただきありがたく存じます」
真奈美は出勤中に何度も心の中で繰り返したセリフをなんとか噛まずに言い切った。
「ははは、そんなに硬くならなくていいよ。さあ、座ってください」
緊張しているのがバレている。真奈美はさらに顔を真っ赤にしつつ、失礼しますと小声でつぶやき落合の向かいのソファに座った。
「実は君に頼みがあるんだ。少し長くなるけど、背景を聞いてくれるかな」
「あ、ありがとうございます。ぜひお伺いさせてください」
落合は笑顔を崩さず落ち着いた口調で説明を続けた。
「今年の3月に、当社が3年前に発表した中期計画が終了することは知っているよね」
「はい、もちろんです」
経営企画本部の傘下にあるMA推進部に所属している真奈美だ。
同本部の主力部隊、経営企画部が命をかけて3年に一度、中期計画を策定していることを知らないとは言えない。
「中期計画が終了するということは、そろそろ次期中期計画の仕込みを始めなければいけない時期ということでね」
(そうなんだ……)
同じ本部だが、お互いセキュリティが高い部門同士なので実務的な情報交換は少ない。
実は中期計画策定についてはあまり細かいプロセスは知らない真奈美だった。
「その仕込みのために、非連続成長のネタを探したいという相談がきているんだ」
非連続成長……すなわちこれまで通りの自社の事業努力による成長だけでなく、M&Aで他社事業を取り込んで一気に成長することをいう。
なぜ、自分がここに呼ばれたのか、少しだけわかり始めてきた真奈美だった。
……………………………………………
(補足解説:飛ばしてもOKです)
M&Aの文脈で、連続成長と非連続成長という言葉が使われることがあります。
英語で言うと、
・連続成長は、オーガニック成長
・非連続成長は、インオーガニック成長
まるで有機栽培のようなイメージですが……
オーガニック成長とは、自社の資源を使って既存事業・新規事業を伸ばしていくこと。
インオーガニック成長は、M&Aや資本提携によって他社事業を取り込むことを言います。
経営計画や中期計画策定の場面でよく使われますね。
「経営目標を達成するためには、オーガニック成長では限界があるから
インオーガニック成長に取り組まなければいけない」
と社長が檄を飛ばしたりします。
会社経営にとっては、インオーガニックをうまく使うことで健康的な成長につながる経営をしなければいけないということですね。
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